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開催結果のご報告

2021.6.14第14回読書会を開催しました！New

6月6日、第14回読書会を開催しました。5回目となる課題図書形式で、課題図書は『体の贈り物／レベッカ・ブラウン』でした。今回は２名での開催となりました。
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◆全体の感想

まずは作品全体としての感想を語り合いました。

●作者自身が何年かホームケアワーカーをしていた経験を元に書かれており、ドキュメンタリーのように読んだ。福祉にもいろいろあるが、最初は重い作品だと感じた。

●短い小説なのにいろいろと考えさせられることが詰まっている。

●解説で訳者も書いているとおり、原文は中学英語の範囲に収まるような文章と単語で構成されており、非常に読みやすい。文学的な難しい言い回しや詩的な表現がなくても、作業や仕草の細かい描写を並べていくだけで優れた小説になる。

●体験している人にしか書けない作品。利用者のそばで作業している時、相手が唾を飲むとその匂いがわかるなど、ああ、そういうことがあるのかと思わされる。読んでいると、新しい体験をしている気持ちになる。

●アメリカにおけるエイズの状況に関心を持った。同性愛者の感染率が高いとすれば、差別をするつもりはないが、昨今のLGBTQ容認の風潮が大丈夫なのかとも思ってしまう。

●人が死に向かう際に人間性が強く出る。自分が誰かの役に立っている、自分の生に意味があったということを人は最後に確認したがる。

●いつでも自分がこうしたサービスを受ける側になる可能性がある。そうなったら自分はどうなるんだろう、自分に残された時間はどれくらいだろうと思った。コロナ禍で死が身近になったせいで、特に強くそう感じる。

●人の死を題材にし、「ああ、この人が死んでしまう、かわいそう」ということを前面にしてしまうと、陳腐なドラマになりがち。そういうドラマ性を極力排除して書かれているのがすごい。〈私〉の感情をほとんど描かず、作業の淡々とした描写に徹し、そこからどうしてもにじみ出てくるドラマ性がある。訳者の語る、〈こういう体験を「そのまま綴る」ほど難しいことはない。語るはしから、「物語」が付着してしまう。「物語」を排するためにこそ、作家としての技量が必要なのだ〉という言葉に感銘を受けた。

●障碍者を題材にした小説も、感動ストーリーになりがちで、そういうものは読みたくない。障碍者のちょっとした行為を「神だ」などと持ち上げることで、当事者は喜んでおらず、感動や善意の押し付けになっている。本作はそうした感動ポルノ（人を感動させるために、病人や障碍者が使われる）になっていない。エイズ患者を、人を感動させるための道具にしていない。

●最後に男性（コニーの息子のジョー）がわあわあ泣くところに驚いた。

●コミュニケーションとは触れ合い。人と人との、ヴァーチャルじゃない触れ合いが、コロナ禍では失われてしまう。

〈私〉の行為の是非

●ホームケアワーカーの〈私〉は、相手にどこまでやっていいのかを考えながら、探りながら作業をしている。「手伝いましょうか」と言いかけて、「まだこの人にはそれは言ってはいけない」と思って踏みとどまるシーンなど、〈私〉はかなり誠実。

●それでも〈私〉の行為は、利用者とのハグ、入院時のお見舞い、「仕事じゃなくてあなたが好きだからこうしている」という発言など、明らかにやりすぎ。これは以下の2点において問題となる。
(1)福祉事業において、誰が担当しても同じサービスでないといけないという原則がある。だから、本当はできるしやってあげたいけど、できないことがある。やってしまうと他の人との差が出てしまうし、「あの人は〇〇をしてくれたけど、この人はやってくれない。あの人に来てほしい」という苦情になってしまうから。
(2)医者が患者の容体や生死に心を痛めていたら心身がもたないのと同様、利用者への思いが強すぎるとホームケアワーカー側が壊れてしまいかねない。実際、小説の後半になると〈私〉は疲れを感じ、辞めたいと思うようになっていく。

●〈私〉はこの仕事を二年続けており、ベテランと呼ばれている。そこまで続けられない仕事なのかと驚いた。それを長く続けさせるようにしたければ、ビジネス的に割り切って、やってはいけないことを徹底させるしかない。

●同時に、相手と深く関わらないと務まらない仕事でもある。原則どおりにはいかないから、何がいいのかわからない。相手にとって、お見舞いに来られることが何にも代えがたい生きがいや喜びだったとしたら、越権行為だからやってはいけない、とも言い難い。相手はもうすぐ死ぬのだし、最後に一分一秒でもいい時間を過ごしてほしいと思うのも当然。

●何をすべきで何をすべきでないかは、利用者自身の意思が何より大事。本書のコニーは身の回りのことを子供にすらさせない。〈私〉もそれを尊重し、手を出したくなるけど我慢する。自分で自分のことをするのが人の誇りだしプライバシーでもある。

●自分がお世話をされる側になることも十分考えられる。そうなったら、やはり自分でできることは自分でやりたいと思う。誰かに手助けしてもらうことは、楽だけれど嬉しくはない。自分で自分のことをやれるのは、人の尊厳であり喜び。人のために何かをやってあげようとする行為は、いっけん善意であり、美しい思いやりだけれど、それが相手のためになるとは限らない。

●誰でも、人に立ち入ってほしくない領域がある。この人にはいいが、この人には駄目という面もあり、それは相手との関係による。病気のこと以外でもそれは同じ。

◆患者への対応

本書の〈私〉と利用者とのやりとりから、参加者さんの実体験を語り合いました。

●病気の人に何かアドバイスをする時、すぐには受け入れてもらえなくても実は相手はちゃんと聞いていて、後からそれに気づかされることがある。アドバイスをする側としては即時の反応を期待してしまうが、気長に待つのも大事。

●視覚障碍者のサポートをしている時、障碍受容のある障碍者に助言をしたら、「だって僕は目が見えないんだよ」と反発され、戸惑った。言い過ぎることもよくないと思った。「なんでも言ってくれていい」と言われたから言ったのに。後からわかってくれたなら嬉しいが…。

◆コニーについて

本作の主役ともいえる、コニーについて話しました。

●コニーは、最初は困った利用者だった。自分の子供にさえあまり自分のことをやらせず、少しでもやりすぎるとぴしゃりと断られる。何かやろうかと訊くと、なるべく面倒くさくないことを探してくれる。こちらは面倒なことを替わりにやりに来たのに。

●病状が進んでくると、コニーも〈私〉にいろんなことを頼む（＝させてくれる）ようになる。

●コニーは最後には〈私〉という個人を必要とするようになるが、福祉事業としてそれは良くない。そこをどう解決すればいいのかは、難しい問題。

●前々回の読書会で出てきた「障碍受容」という言葉を思い出した。コニーは、自分の病気を受け入れる度合いが変化していき、最後は死をも受容していく。コニーは、〈あたしは幸運よね〉と言い、〈人生まるひとつ、生きてきた。もう寿命よ〉〈みんなと話したり会ったりして、愛してるって伝えられた〉と言う。その姿は、人として尊敬に値する。

●最後に息子のジョーがコニーを看取る場面。〈母は彼をこの世界にもたらした。その世界から母が去るのを、いま彼は手伝っている〉という言葉がぐっとくる。悲しいシーンなのに、悲惨な印象を与えず、神々しい。

◆エドについて

コニーに次いで印象的なキャラクター、エドについて話しました。

●エドはホスピスの順番待ちをしながら、いざ空きが出て入れるとなったら、なにかと理由をつけて行きたがらない。姉が来るからとかパーティーがあるからとか、理由も子供じみている。それらを〈私〉に否定され、言い訳が通用しなくなると今度は怒り出す。なんとかホスピスに入ると、意外にみんなが歓迎してくれて、ホスピス入院を断っていた彼を英雄のように扱ってくれ、スーパー・エドと呼んでくれる。けれどだんだん周りの人間が亡くなっていくと、どうせ死んでしまうのに仲良くなっても意味がない、とエドはふさぎがちになる。それでも最後に自らの意思で出ていくエド。そんな彼を、新しく入った患者たちは、すごい、ここから生きて出ていった人などいない、彼はスーパー・エドだと言い合う。出ていったあとどうなるか、希望は薄いけれど、ホスピスから生きて出ていったことは事実だし、他の患者に希望という贈り物を置いて出ていったのも事実。

◆関連図書

参加者さんから、様々な関連図書をご紹介いただきました。

●『死ぬ瞬間／エリザベス・キューブラー・ロス』…人が死を受け入れる段階について書かれた名著。膨大な臨床例から、否認→怒り→取引→抑鬱→受容という段階を経て人は自分の死を受け入れていくことを発見した。課題図書のコニーも、こうした段階を経て死を受け入れていく。

●『がんのセルフコントロール／カール・サイモントン』…サイモントン療法について書かれた本。腫瘍の専門医だったカール・サイモントン博士が、がん患者について過去の臨床例を調べていくと、前向きな希望を持った患者のほうが予後が良くなることを発見し、それに基づいた心理療法を編み出した。がんになった人の口からよく聞くのは、「がんで良かった」ということ。事故死や突然死に比べて症状がゆっくり進むため、亡くなる準備をし、やり残したことをやり、家族にもあいさつができる。ここでもコニーの最期を思い出した。

【まとめ】

今回は二人でしたので、お互い思いつくままにざっくばらんに語り合いました。実体験を交えて、思ったより深くたくさんのお話をすることができました。最後は課題図書を離れ、雑多な読書のお話をしました。今回もまた楽しい時間をありがとうございました！

2021.5.15第13回読書会を開催しました！

5月9日、第13回オンライン読書会を開催しました。「私の素」というテーマで、おすすめ本を紹介しあいました。
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◆紹介された本

※以下、紹介者の発言に、あらすじ等を主催者側で付加している部分もあります。

●まずは主催者の春名が、『旅をする木／星野道夫』を紹介。（第7回の読書会でも紹介したが、メンバーが異なるので再度紹介。）星野さんの本業は写真家で、写真ももちろん好きだけれど文章も素晴らしい。人間や自然に対する考え方に深く共感する。
　アラスカを拠点に世界の僻地を撮影のために訪れ、そこで出会った人や景色が描かれる。たとえば、誰もいない海辺にたった一人で住み、年に一度だけ町に来て一年分の新聞をもらい、それを一日分ずつ読んで暮らす男の話。また、自然礼賛一辺倒ではなく、ニューヨークのような大都会での暮らしも魅力的だという話。そうした数々の記述から、人はどう生きてもいいのだという勇気をもらえる。
　社会人になりたてで人とうまく交われないことを悩んでいた頃、今の自分の生き方でいいんだよと、この本が背中を押してくれた。その後、人生の節目ごとに読み返して感慨を新たにする一冊。

●『旅をする木』でヒグマの話が出たのを受け、『邂逅の森／熊谷達也』を紹介。マタギを生業とする男が地主の娘と恋に落ち、村を追われるが、仕事への思いが断ち切れず……、という内容。マタギとしてのプライド、恋愛要素など盛りだくさん。生活のためにヒグマを殺すけれど、どこかにヒグマと人間との信頼関係も感じられる。
　ふだん、本を読んで感動することはあまりないのだが、この本はページを繰る手が止まらなかった。何ひとつ思うとおりにいかなくても、人生の一瞬のきらめきが確かに感じられる。ラストで言葉にできない感動を味わい、この一冊で人生が変わった。常に心の中にある、記念すべき一冊。これ以降、読書にはまるきっかけになり、民俗学にも興味を持つようになった。その後、同著者の作品を追っているが、これ以上の作品は出てこない。

●文系だった自分が理系の本を好きになるきっかけとなった『人類が知っていることすべての短い歴史（上・下）／ビル・ブライソン』。イギリスの紀行作家が子供の教科書を見て、なんとつまらないんだと思い、自分なりの科学史を書き上げた。黎明期から現在に至る科学観の変遷が描かれる。天文学、生物学、化学など様々な分野が網羅され、失敗エピソードなどもふくめて面白おかしく紹介されている。理系入門書として最適。
　その他、読みやすい理系本として、『フィンチの嘴／ジョナサン・ワイナー』も紹介。進化論が現在も続いていることを証明した本。また、『哲学的な何か、あと科学とか／飲茶』も、科学や哲学を易しく面白く紹介した好著。

●『人間の土地／サン・テグジュペリ』…『星の王子さま』で有名な著者は、作家であると同時に飛行機の操縦士でもあった。商業飛行の黎明期に危険な飛行を続け、その時の体験を元に書かれた半自伝的小説。飛行機が何より好きで飛行機に人生を捧げる著者の姿を読んでいると、「あなたは何が好きですか？」「あなたはどう生きていくのですか？」と問われている気がする。人生の中で大事な局面に思い出す一冊。
　人類が初めて目にする上空からの景色を見て優越感を抱き、普通の仕事をしている人を見下すような描写も面白い。著者の人間臭さを表すエピソードだが、生きている誇りと紙一重だという気もするし、自分にもそういう面があるかもと思わせる。
　飛行機でアフリカに落ちたエピソードでは、水を求めて夜露を燃料タンクに集めて飲み、何度も人が来る幻覚を見る話など、壮絶な遭難の様子が生きていることの貴重さを思わせてくれる。
　アフリカで出会ったバークという老人の話も興味深い。奴隷として暮らす彼をサン・テグジュペリが雇い主から買い戻し、さらにお金も与えて故郷に連れて行く。急に有り余るほどの自由とお金を手に入れたバークは、集まってきた子供にお金をすべて与えて無一文になるが、「これでやっと自分の重みを感じられるようになったよ」と彼は笑う。
　飛行機乗りの話だけれど、人生についての普遍的な気づきを与えてくれる。「ある人に、思うまま創作活動に専念できるよう食う心配をなくしてやると、彼は眠ってしまう。気前のよい男に金を持たせると、彼は守銭奴になってしまう」「愛するとは互いに顔を見合うことではなく、一緒に同じ方向を見ること」といった、箴言的な文章も面白い。

●『こちらあみ子／今村夏子』…あみ子という風変わりな女の子がとる無邪気な行動が、大人にはぎょっとするような意味合いになっていく。母親は彼女の言動になんとか付き合っていたけれど、弟に関するあみ子の行為に遂に耐えられなくなり、精神的にダウンしてしまう。こうした女の子の物語を、周囲の側ではなく、女の子の側から書いた作品はあまりない。初めて味わう読み応えが衝撃的で、心に残って離れない作品。
　本作が著者の初めて書いた小説というのは凄いし、才能の残酷さを思わせる。すごい作家がいる、と自分だけのものにしておきたかったが、今はかなりメジャーになってしまい、一抹の寂しさがある。ただ、こちらもその後、同著者の作品を追っているが、これ以上の作品は出てこない。

●『ジョン・レノン対火星人／高橋源一郎』『優雅で感傷的な日本野球／同』…大学の時に本を読み始め、その頃にはまったのが高橋源一郎。ポストモダン文学の自由な感じを面白く読んだ。『優雅で～』では野球について語りながら文学の比喩にもなっている。著者のエッセイも面白く、そこで紹介されていたのが『タイタンの妖女／カート・ヴォネガット』。ふざけた設定の中にシリアスさや哀しみがある。文章も面白く、皮肉的なところが自分によく合う。それらを含め、高橋源一郎には小説の自由さを教えられた。

●大学時代、読書好きの友人から「読みやすいよ」と勧められたのが遠藤周作。平易な文章で中身も好みにあったので、ずっと読み続けている。たとえば、『海と毒薬／遠藤周作』は、第二次大戦中に九州大学で実際におこなわれた人体実験を元に書かれた小説。相手国の捕虜なら人体実験は許されるのか、医学の進歩のためという名目があれば、人を殺してもいいのかという重いテーマを扱いながら、エンタテインメントとして読める一冊。
　遠藤作品はキリスト教文学とも呼ばれるが、それほど堅苦しくもない。遠藤周作自身がキリスト教徒でありながらその教義に疑問を抱き、終生その疑問と立ち向かいながら小説を書いた。中でも『哀歌』はその集大成的な作品。キリスト教徒として、人として生きていくにはどうしたらいいのかという答えのようなものが書かれている。
　『黄色い人』は、神戸に住む外国人神父が日本人女性と恋愛関係を結び、キリスト教と現代生活のはざまで苦しむ話。キリスト教徒でない人にも、何かの枠をはめさせられた状態で生きていくことの難しさを考えさせる。
　『わたしが・棄てた・女』は、悲惨な運命をただ受け入れていく無垢な女性・森田ミツを描く。森田ミツは他の遠藤作品にも何度か登場するが、たとえば『ファーストレディ（上・下）』。主人公の渋谷は政治家となって総理大臣をめざし、彼の友人で弁護士となった辻は、医師である妻とともに充実した生活を送っていた。辻はふとしたきっかけで貧しく不幸な女性・森田ミツと出会い、関係を結ぶ。辻は家庭よりも森田ミツと一緒にいるほうが安らぐ自分に気づく。
　こうした遠藤作品は海外の旅行先で読むと心地よい。文章が体になじんでいく気がするし、あとになって「あの国ではあの小説を読んでいたなあ」ということを懐かしく思い出す。

●『ねじまき鳥クロニクル／村上春樹』…大学時代にはまり、村上春樹ファンになった。だいたいの作品は読んでいるが、なぜか『海辺のカフカ』だけはどうしても最後まで読めない。最近の長編はあまりインパクトがない。短編だと、『レキシントンの幽霊』に収録されている「沈黙」という小説がとくに好き。いじめにどう打ち勝つかという話で、学校の教材にも使われている。いじめるやつは頭がよくて人望があるが、それにどう立ち向かっていくのか。折りに触れ、いまだに読み返している。

●遠藤周作の話にあった西洋的なものとの葛藤という意味で、『私小説／水村美苗』。著者を思わせる女性主人公は12歳くらいからアメリカに住んでおり、今は大学で博士論文を書いている。社会に出るまでのモラトリアムという多感な時期、アメリカにも溶け込めず、今の日本にも違和感を覚えている。そんな中で日本の書籍が助けになり、最終的に自らに日本的なものを発見する。本書はサブタイトルに「from left to right」とあるとおり、横書きで書かれており、時に英文も出てくる。（紹介者さん自身が）小さい頃アメリカに滞在したこともあり、文体が自分にぴったり合う。同著者の他作品もすべて好き。

～最後に急ぎで数冊ずつ紹介～

●悩み相談でも有名な心理学者による『自分の構造／加藤諦三』。かなり多くの著書があり、同じような内容の本もあるが、本書は出色の内容。自分に自身がない人、他人と一緒にいると疲れてしまう人への処方箋が具体的な対処法と共に書かれており、若い頃から何度も読み返している。『でか足国探検記／椎名誠』は、著者の数ある旅行エッセイの一つ。「でか足国」とは南米のパタゴニアという地域のこと。この本を読んで実際にパタゴニアやフォークランドに旅行に行き、旅行好きになるきっかけともなった本。
　『孤島の鬼』などの江戸川乱歩作品。自分たち世代だと、小学校の図書館には必ず江戸川乱歩の少年探偵団シリーズかホームズシリーズがあり、それらを読んで読書好きになった。『心臓を貫かれて／マイケル・ギルモア』は、アメリカで死刑になった殺人犯を弟の立場から描いたドキュメンタリーで、人間の闇の深さが伺える。『実存主義とはなにか／サルトル』は、人間の生きる目的とは何かという問いに対し、人間に生まれた目的などない、生まれたあとに生きる目的を探し出すことが大切だと解く。講演録なので読みやすくわかりやすい。

●自分の素というわけではないが、最近サウナにはまっており、『サウナー・ブック／松尾大』を紹介。サウナの魅力・効能から、サウナ用語＆基礎知識、“ととのう”ためのサウナの入り方などが紹介されている。実際に自分も温冷交代浴をおこなうなど、生活に影響を与えられた一冊。

◆まとめ

「私の素」というテーマはほんの思いつきで決めたのですが、自分がどういう本を血肉にしてきたのだろうと考え、本を探す行為自体がとても楽しい体験でした。また、以前から顔見知りの参加者さん達がどういう本をこれまで読まれてきたのかを知るのも楽しく、周りの知人や教授の影響など、本を読むきっかけなどもお伝えいただいて、有意義な会となりました。

2021.4.12第12回読書会を開催しました！

4月4日、第12回読書会を開催しました。4回目となる課題図書形式で、課題図書は『目の見えない人は世界をどう見ているのか／伊藤亜紗』でした。初参加の方お一人を含め、合計４名での開催となりました。
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◆全体としての感想

まずは簡単な自己紹介のあと、全体としての感想をお一人ずつお聞きしました。

●視覚障害者の人と会う機会が少ないので、いざ接するとなった場合にどうしたらいいのかわからず萎縮してしまう。それでも、コミュニケーションのとっかかり的なことを本書から知ることができた。

●晴眼者が善意からやっているつもりが、視覚障害者を傷つけることもある、という記述が印象的。

●視覚障害者にもいろんな人がいて、目の見えないことへの対処も人それぞれ。個別と一般のバランスを取るのは難しい、という本書の前提認識が良い。

●視覚障害者と接することで、晴眼者側が気づきを得る。自分が普段どういう行動様式で動いているのかがはっきりする。

●晴眼者は視覚に頼り過ぎている。広告が目に入ることで踊らされるように購入してしまう、など。

●視覚障害者だけでなく、立場の違う人とのコミュニケーション全般についてのヒントとなる。

●見えないことをユーモアとしてとらえるのは有効だが、晴眼者側から行動するのは難しい。当事者同士が差別用語を使って笑いあうこともあるが、晴眼者側からは言えない。黒人同士がNワードでしゃべるのと同じ。ただ、ユーモアが触媒になるという話もわかる。健常者同士でも、軽口をたたけるかどうかは相手との距離によって変わるのと同様、距離感で判断すればいいのだし、無理してユーモアにすることもない。

●脳の働きの本だと思った。視覚があるのとないので、脳の働きがこんなに違うのかと驚いた。

●見える人は物を二次元的にとらえ、見えない人は三次元的にとらえる、という指摘が面白い。

●視覚障害者が聴覚や触覚などで補い工夫するやり方から、腕のない人が口を使って服を着たりすることを連想した。人間の可塑性や対応力はすごいと思った。

●「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」という、真っ暗闇を視覚障害者の方のアテンドで歩く体験施設(今回の参加者のうち2名が経験済み)がある。この施設では、「視覚障害者と同じ経験をする」とか「視覚障害者の気持ちがわかる」ということよりも、自分の中の新しい何かが呼び覚まされる、まったく新しい貴重な体験ができる。

●目の見えない叔父がいるが、いつも明るくて、見えないことを感じさせない。叔父の家を訪問した際、結婚式のビデオを「一緒に見よう」と言われたことが忘れられない。

●「見る」といっても視覚だけのことではない。「眺める」という行為の中には音や気配、匂いなども含まれる。目についての慣用表現「話の筋が見える」「見かけだおし」「一見する」などがやはり視覚だけではないところも面白い。

◆現場の話

視覚障害者のガイドヘルパーをされている参加者さんから、貴重なお話をお聞きしました。

●視覚障害者の方とマラソンを走ったり、美術鑑賞をしたり、映画に説明音声を入れて上映するなどの活動をおこなっている。

●視覚障害者だから下ということは決してない。見える見えないに関わらず、まったく対等に接している。

●見えない人は対象を触ることで情報を得るが、コロナ禍で触ることが禁じられるとそれができなくなり、視覚障害者には厳しい。

●言葉でものを伝える機会が増えると、これはどう説明すれば伝わるかと考えるようになり、ふだんのものの見方、表現力が変わってくる。

●視覚障害者ごとに、同じやり方が通じないことは、日々ある。先天か後天か、あるいは障害受容（自分の障害をどこまで受け入れ、克服しているか）によっても違う。

●視覚障害者で、白杖を持つまでに時間がかかる人もいる。なぜなら、“持ったら（本当に）障害者になってしまう”から。同様に、“点字が読めるようになると（本当に）障害者になってしまう”からと言って覚えようとしない人がいる。若い頃に覚えたほうがいいのに、高齢になってから苦労することになる。

◆ソーシャルビュー

視覚障害者と晴眼者が一緒に美術鑑賞をおこなう「ソーシャルビュー」に興味を持った方が多くいらっしゃいました。

●見えない人が絵画を楽しめるのか最初はよくわからなかったが、違う形での楽しみ方があるのだと気づいた。

●言葉によって、目の前のものがどんどん変わっていくという感覚も面白い。そういう内容の映画を思い出した。

●話すことでいろんな新しい気づきを得られるのは、読書会に似ている。

●著者の専門とする「美学」は、美しさなど、言葉にしづらいものを言語化することで共有し、抽象的なものに説明をつけようとする学問。それがソーシャルビューに似ている。

●見える人にどこかの場所を言葉で説明するのさえ難しいのに、それに輪をかけた難しさがあり、自分がアテンドすることを想像するとどう伝えればいいのか戸惑う。

～以下、実体験者の方のご意見～

●造形物は触ることで把握してもらえるが、絵画は難しい。

●説明は「大から小へ」が基本。まず概要を説明して、そこから細かく詳細を説明していく。

●説明する側とされる側で、どこまで共通理解があるのかが重要となる。中途失明の人は過去に見た経験があり、○○と同じくらいの大きさ、色、などの説明が可能だが、先天的に見えない人にはその説明が難しい。「電話ボックスと同じくらいの」が若い人に通じないように、ジェネレーションギャップもある。ただ、そもそも参加しようという視覚障害者の方は意識が高く、知識も豊富な方が多いので、理解も早い。

●説明をしていると、自分が何に頼っているのか、いかにぼんやり考えているのかを思い知らされる。

●晴眼者のサポーターが一人から複数になるだけで、伝わり方がぜんぜん違ってくる。

●zoomでの美術鑑賞もあるが、これは視覚障害者の人は求めていないことがわかった。やはり、みんな外に出て話を聞きたいと思っている。

◆視覚障害者への話しかけ方

参加者さんの一人から、駅などで視覚障害者の人を見かけたらどう声をかければいいでしょう、という質問があり、ガイドヘルパーをされている方から以下のアドバイスがありました。

●正面または斜め前から、その人に向かって声をかけていることがわかるように呼びかけるのがよい。一番のNGは、後ろから触ること。相手がびっくりしてしまうので。ただ、ホームから落ちそうな時などは、どこからでもいいので声をかけたり体をつかんだりする。

●「どこに行かれるんですか」「お困りですか」「お手伝いしましょうか」などの言葉がよい。相手のことは、「白杖の人」という呼び方がある。

●白杖を持って歩いている人は、とりあえず自分一人で外を歩けるという自覚があるが、それでもヘルプがあればありがたい。

●声をかける側の心理として、犯罪目的と思われる可能性を考えると、躊躇する。窃盗目的やセクハラ目的と勘違いされ、相手が警戒するのではと思ってしまうから。それでも、まずは「お困りですか」と声をかけ、相手が拒否すれば引き下がればいいのでは。

◆読書会での気づき

さまざまなお話を続けるうち、本書に関していくつもの気づきが得られました。

●点字を読む人の脳を調べると視覚の分野が活動しているのがわかる。つまり、“読む”という行為は視覚だけではなく、触覚にも関係している。生まれたばかりの赤ちゃんは感覚の分化が完成しておらず、音を見たり、色を聞いたりするらしい。共感覚の人も、匂いが数字に見えたり、数字が色に見えたりする。エコロケーション（自分で発する音の共鳴から周囲の状況を判断し、目が見えないのに自転車に乗ったりスポーツをしたりする）の話。人間の可能性ってすごいと思わされる。

●科学的にアプローチしようとすると、どうしても分類したがる。人間の感覚も、視覚、聴覚、触覚などに分類して解析しようとするが、実はそんなにきれいに分けられないのでは。

●見える人は物を二次元的にとらえ、見えない人は三次元的にとらえる。見える人は、描かれた絵など、かつて自分が見た経験にとらわれる。視点があれば死角が生まれる、という指摘が面白い。

●視覚障害者が歩くとき、脚の裏の感覚や音、匂いなどで判断している。これは、晴眼者もちょっとずつやっていることかも。

●本書の「自立するとは依存先を増やすことだ」という言葉が印象的だった。自立＝一人だけで全てをやれるようになること、と捉えがちだが、健常者でもいろんな人や物に依存して生きている。

●障害があるとうまく生きられないのは、社会がそれに対応できていないから、つまり「社会側の責任」だとする考え方。全てが揃っていて当たり前、という認識のもと、欠乏していることが特殊だと思われる風潮がある。

◆関連図書

参加者さんから、様々な関連図書をご紹介いただきました。

●『わが盲想／モハメド・オマル・アブディン』…スーダンに生まれ、12歳で視力を失った著者。19歳で来日し、言葉も文化もわからないなかで奮闘するさまを綴った異文化体験記。

●『異国トーキョー漂流記／高野秀行』…東京に住む不思議な外国人を紹介したエッセイ。この本に上記のモハメド・オマル・アブディンさんのことが出てくる。目が見えないのに野球が好き、というところから意気投合し、出版にも尽力した。

●『それでも僕たちは「濃厚接触」を続ける！／広瀬浩二郎』…今回の課題図書にも登場された視覚障害者の広瀬さんによる著書。新型コロナの影響で「触る」ことがタブーとなった世の中で、視覚障害者には生きる上で不可欠な「触る」ことの意義を問い直す。

●『車椅子ホスト／寺田ユースケ』…子供のころから脳性まひで車椅子生活を続ける著者が、ホストとして生きていく様を描いたノンフィンクション。障害者、マイノリティの視点で書かれた一冊。

●『わかりあえないことから／平田オリザ』…視覚障害者と晴眼者がいかにコミュニケーションを取るのかのヒントになる。人と完璧にわかりあうことを目標とするからうまくいかないのであり、そもそも人と人とはわかりあえない、ということを前提とし、その中での振る舞いを考えたほうがうまくいくし気が楽になる。

●『ヤンキー君と白杖ガール／うおやま』…目の見えない少女とヤンキー少年のラブコメ漫画。読みやすく、見えない人の世界を知ることができる。ヤンキー君もまた人から疎ましがられるマイノリティであり、少女と共感する。弱視の彼女から見た風景が絵として表現されるのも面白い。

●『ユマニチュード入門／本田美和子』…認知症の人とのコミュニケーションをとるための技術論。正面を見て話す、手を触ったり握手をするなど、紹介者さんが実際に試してみて、とても効果があった。技術を知るのは大事。

●『聲の形／大今良時』…聴覚障害の少女を描いた漫画。岐阜出身の作者さんなので、登場する遊園地が長島スパーランドだったりなど、あるあるネタも楽しめる。

●『こんな夜更けにバナナかよ／渡辺一史』…筋ジストロフィーで体を動かせない男性を描くノンフィクション。彼は周りに依存しながら、自立している。介護の仕事をしているとわがままな人に出会うことはあるが、わがままが変えてきた歴史もある。この本を読んで、わがままな人を見る目が変わった。

【まとめ】

今回も様々な意見が飛び交い、視覚障害者のガイドヘルパーをされている方から貴重なお話も聞くことができ、とても楽しくて有意義な会となりました。もし実際に自分の目が見えなくなったらと思うと、想像もつきません。けれど、この本を読んだことでほんの少し希望を持つことができ、見えなくなったとしてもそれで終わりじゃないと思えた、という意見がありました。本書にも書かれているとおり、障害は高齢化とも強く関連しており、誰もがいつどういう障害を持つ身になるかはわかりません。そうなったとき、いろんなヒントを与えてくれるのが今回の本だったと思います。参加者の皆様、本当にありがとうございました！

【視覚障害者関連の活動】

名古屋市周辺で行われている視覚障害者関連の活動について、読書会のあとにいただいたお知らせを掲載します。

●なごや楽走会
https://nagoyarakusoukai.wordpress.com/
上記にHPがありますが、最近あまり更新されていないようです。HPに連絡先が見つけられませんでしたので、愛知県社会福祉協議会の、紹介ページから抜粋しました。
　電話：0586-53-2030／090-7951-4466 （担当：高橋）

●名古屋YWCA アートな美
http://www.nagoya-ywca.or.jp/fukushi/biguide/bitop.html
お話ししましたように、YWCAの参画団体です。現在は月例会のみで、鑑賞イベントは行なっていません。上記リンク内に、連絡先も記載されていますが、代表者は平川さんという方です。

●視覚障害者の情報環境を考える会　ボイス・ケイン
https://www.facebook.com/voice.cane/
こちらもコロナ禍で、活動はほぼ休止中でした。4月からグループ活動も再開予定ですので、随時、上映が始まりそうで期待しています。

2021.3.21第11回読書会を開催しました！

3月7日、第11回オンライン読書会を開催しました。「衝撃」というテーマで、おすすめ本を紹介しあいました。
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◆紹介された本

●まずは主催者の春名が『グローバライズ／木下古栗』を紹介。それほど有名な作家ではないが、かつてTwitter文学賞の国内編1位を取ったこともある隠れ人気作家。衝撃というテーマで考えたとき、真っ先にこの短編集が浮かんだ。
　二つの話を結びつける方法がぶっとんでいて爆笑できる「フランス人」、排泄物を執拗に描く「専門性」、はねられた生首が自分の胴体について語る驚きの純文学「globarise」（原題ママ）など、短いけれど様々な趣向で楽しめる12編が収録されている。とくに、一見、中国語のように適当に漢字が並んでいる字面を、読むのではなく見ることで話の筋がわかるという仕掛けの「道」！　小説でこんなことができるのかという衝撃を受けた。かなり下品ではあるけれど、あまりのバカバカしさに感動できる一冊。

※あとから調べると、ご紹介した短編「道」が河出書房新社さんのサイトで無料公開されていました。下記のリンクから読めます。
木下古栗『グローバライズ』試し読み

●少女漫画の『天人唐草／山岸凉子』…主人公の岡村響子は厳格な父親に育てられた。イヌフグリという花の名を口にしただけで叱られ、学生時代、好きな男子にラブレターを渡した時も、「お前がそんなませた子だとは思わなかった」となじられる。響子は内向的で人とうまく付き合えなくなり、女性的で従順な性格でいようとするあまり、お見合いもうまくいかず、周りからも浮いた存在になってしまう。その後、父親にまつわる衝撃の事実が明かされ……、という内容。彼女の現在の姿は冒頭で明かされており、彼女がどうしてそうなったのかが語られていく。核心をずばりと突く表現にも唸らされる。

●少女漫画つながりで、主宰者・春名があらゆる漫画の中で一番好き、今後もこれ以上に好きな作品が出てこないとまで思う一作、『船を建てる／鈴木志保』を紹介。主人公は2匹のアシカで、白いほうの名前が〈煙草〉、黒いほうの名前が〈コーヒー〉。2匹は鯨の解体工場で働いており、そこで日々起こるできごとが連作短編的につづられていく。
　描き方、表現のしかたが非常にスタイリッシュかつ斬新で、そこにまず衝撃を受ける。とくにコマ割りが独特で、コマの順番が通常どおりでなかったり、見開き全面に大きな鯨の絵が描かれていたり。小説や映画からの引用も多く、とくに著者がファンだと公言するリチャード・ブローティガンの影響が大きい。基本的には人情噺的な“いい話”が多く、感動しながらそれらを読み進めていくと、ラストでこの世界全体の大きな秘密が明かされる。そこが何より衝撃。

●『絶対安全剃刀／高野文子』…これも漫画で、バラエティに富んだ10ページほどの短編が数多く収録されている。たとえば「うしろあたま」は、幼少時に“男にも負けない強い子になれ”と言われて育った主人公・つじこの話。女性特有のかわいらしさやかよわさを嫌い、それをひけらかす女性をバカにし、自分に興味を持ってくれる男性にもつれない態度をとる。ある日、その男性からお茶に誘われたつじこは、彼がどうせ告白してくるのだろうと思い、そうなったら断ろうと思いながらお茶に付き合う。無理に女性らしさを排除しようとするたび、ぎこちなさと不自然さが目立ってしまうことにつじこは気づく。
　白眉は、男性がつじこに、猫がいるよとマンションを指差すシーン。「ほらゆびの先」「わかんないわ」というコマで、指はフォーカスを外してぼやけて描かれている。次のコマで同じく「ほらゆびの先」「わかんないわ」というやりとりをしながら、今度は指だけにフォーカスがあたり、背景はぼやけて描かれる。漫画でなかなかフォーカスという概念は採用されない。この2コマが本当にすごい。著者の高野さんは常に新しいことをやり続け、いろんな漫画家に影響を与えている。

●『象は鼻が長い／三上章』…1960年代に出された独自の日本語解釈に関する異端の書で、「は」という助詞について解析されている。著者いわく、「は」という助詞は、別の助詞の代わりをして強調しているのだという。たとえば本書のタイトルの文章「象は鼻が長い」の主語はどれだろう、という問題。普通、「は」のついている言葉が主語だと思われがちだけれど、「長い」のは「象」ではなく「鼻」のはず。著者の解析によれば、この文章の「は」は「の」の代わりになっている、つまりこの文章の伝えたいのは「象の鼻が長い」ということであり、この「の」が「は」となって強調されている。
　ほかにも、「掃除は私がやりました」という文章であれば、「は」＝「を」の代わりだし、、「広島はカキが有名です」なら、「は」＝「で」の代わりをしている。異論はあるだろうし国語教育の現場では採用されないだろうけれど、かなり納得させてくれる一冊。

●『海辺のカイン／樹村みのり』…こちらも少女漫画。主人公の展子(のぶこ)は、女性ファッションデザイナーの佐野と出会う。展覧会で自信のない佐野のデザインを展子が褒め、展子は女らしい服装ができない悩みを打ち明ける。それは母親からのいびつな育てられ方に原因があり、佐野からのアドバイスを受けるうち、展子は佐野に惹かれていく。ようやく吹っ切れた展子は今まで履けなかったスカートを履いて母親に会いに行く。その後、展子は佐野と関係を持つに至るのだが、二人の思いには決定的なずれがあった――。
　著者の樹村みのりはいわゆる“24年組”の一人で、紹介者さん曰く“加藤登紀子的な人”、つまり学生運動に参加した左翼的な人だった。24年組の漫画家達は作品内で政治色やフェミニズムをさほど強調はしないのに対し、樹村みのりはそれらを割と自覚的に描いている。
　この本の紹介のあと、女性がスカートを履くことについて、スカートは女性性の象徴である、男性は女性のスカート姿にこだわりがある、足が見えているところがポイント、などとしばらく語り合いました。

～最後に急ぎで数冊ずつ紹介～

●『ぼくの美しい人だから／グレン・サヴァン』…美男美女ではなく、階級も異なる二人の恋愛小説。映画化もされた。

●『少年の名はジルベール／竹宮恵子』…24年組の一人である著者による自伝。衝撃的だったのは、同じく24年組で仲の良いとされていた萩尾望都のことを、ある時期から嫉妬し苦しんだというエピソード。

●『ジョゼと虎と魚たち／田辺聖子』…車椅子生活を送る女性・ジョゼが主人公だが、いわゆる“かわいそうな話”でも“純愛もの”ではない。山田詠美による解説もすばらしい。

●『夜と霧／ヴィクトール・E・フランクル』…すごく辛い話かと思っていたら、人間性の美しさについての本であり、それが衝撃だった。精神分析医である著者が、人間が極限状態になった時にどう行動するかを科学的に分析してあるため、悲惨な内容ではない。

●『逢沢りく／ほしよりこ』…『きょうの猫村さん』を描いた著者による、こちらはシリアスな話。

●『ティモレオン―センチメンタル・ジャーニー／ダン・ローズ』…ある老人に飼われているティモレオンという犬が遠くに置き去りにされ、そこから自宅まで歩いて戻る途中、たくさんの人達と出会う。そのエピソードが短編集のように一つ一つ綴られていき、どれもが素晴らしい。けれど、そうした物語を抜けてきたあとに、驚愕の展開が待ち受けている。

●『目の見えない人は世界をどう見ているのか／伊藤亜紗』…視覚障害者が世界をどのようにとらえているのかを解析した一冊。冒頭に前提として、視覚障害者と一口に言っても人それぞれで考え方や行動様式はまるで違う、と語られる。確かにそのとおりであり、けれど自分はそう思っていなかったことを思い知らされる。視覚障害者は三次元的に空間認識をすることや、目が見えない人が絵画鑑賞を楽しむ方法など、興味深く衝撃的な発見があった。ちなみにこれが次回の課題図書となる。

●『夏の終わり／楳図かずお』…タイムループSFものの漫画。ある女性が二人の男性と知り合い、そのうち一人と結婚する。けれどうまくいかず絶望し、「あのときもう一人のほうを選んでいたら」と願って自殺する。気づくと時間が戻っていて、その願いどおり、今度はもう一人の男性と結婚するけれど、そちらはもっと卑劣な男だった。「もしもやり直して別の道をたどれば幸せになれたのでは」という誰もが願うようなことが、実際に起きたとしてもやっぱり幸せにはなれなかった、という身も蓋もなさに衝撃。

●『自虐の詩／業田良家』…働きもせず酒とギャンブルに明け暮れる駄目な夫と苦労する妻を描いた４コマ漫画。最初はしょうもないギャグ漫画として始まるものの、途中から女性の過去の回想がはじまる。そこからものすごいストーリー性が生まれ、最後はとんでもないところへ連れて行かれる、奇跡のような一作。

●『舞姫テレプシコーラ／山岸凉子』…『自虐の詩』のストーリーを聞いて連想したのが、このバレエ漫画。主人公の少女は母親にロリコン趣味のフィルムに出させられ、父親は飲んだくれで働かないという悲惨な状況にいる。少女漫画でここまで描いていいのかと思わせるほどの衝撃作。

◆まとめ

今回は二人での開催となり、漫画が多くを占めました。「衝撃」というテーマは意外と難しく、衝撃となる部分がネタバレになってしまうから紹介したくてもできない、というケースもたくさんありました。これは今後のテーマ選びに影響しそうです。ともあれ、楽しく二時間を過ごすことができました！

2021.1.13第9回読書会を開催しました！

1月10日、第9回オンライン読書会を開催しました。「歴史」というテーマで、おすすめ本を紹介しあいました。
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◆紹介された本

●まずは主催者の春名が『ウォーターワールド／グレアム・スウィフト』を紹介。実は今回のテーマで「歴史」を選んだのは、この本を紹介したいためでした。
　主人公は高校で歴史を教える教師トム。生徒からは「なぜフランス革命とか昔のことを学ぶ必要があるの？そんな古い話より、いま必要なことを学びたい」と言われる。歴史を学ぶ意味は、過去の過ちから現在の行動を見直すこと。つまり、他の教科は「こういう風にしましょう」ということを学ぶのに、歴史だけは「こういう風にしないようにしましょう」ということを学ぶという皮肉にトムは開き直り、身近な歴史ならば語る意味があるだろう、と自分達の住む町の歴史を語りだす。舞台はフェンズという沼沢地で、町の歴史は水との戦いの歴史でもあった。同時に語られるのは、トムの妻とのこと。二人はかつての幼なじみで、結婚して幸せに暮らしてきたのだが、50歳を過ぎた今になって突然、妻が嬰児誘拐事件を起こしてしまう。トムはその真意を知るべく、妻との歴史をたどりはじめる。こうして町の歴史とトム夫妻の個人史とが折り合わされ、壮大な物語が展開する。
　どんな出来事でも、その前後の物語（＝歴史）を通じてようやく理解される。たとえばフランス革命がその後の歴史により意味づけられるように。だからトムは歴史を語り続ける。トムの少年時代、川遊びの戯れにウナギを妻の下着に入れた話のあと、ウナギに関する歴史が延々と語られる箇所が素晴らしい。小説を読む醍醐味が詰まった一作。

●『時の娘／ジョセフィン・テイ』…イギリス史上で大悪人とうたわれるリチャード3世の正体を探っていく歴史ミステリ。アラン・グラント警部が足を骨折し、友人の女優から歴史上の人物の謎を追えば退屈がしのげると勧められる。警部が興味を持ったのが、ばら戦争（百年戦争の末期にあったイギリス王位をめぐる争い）の時代に生きたリチャード3世だった。彼は罪もない子供を殺し、悪逆の代名詞ともされているが、警部には良心的で悩める人物、完全主義者のように見えた。警部は他の友人達の助けを借りて探求を始める。
　10年ほど前にリチャード3世の遺骨が見つかったこともあり、興味をそそられる。リチャード3世についてはトマス・モアの評伝が有名だが、トマス・モアはリチャード3世の敵方にあたるため、リチャート3世を悪者として描きがち。いっぽう本書はそうしたバイアスなしで客観的に描かれていく。主人公と警部の友人関係もほのぼのとしていて楽しい。安楽椅子探偵ものとして、分量も短く読みやすい。
　タイトルは、「真実は時の娘」ということわざ（真実は時がたたないとわからない、の意）から来ている。読みながら、イギリスの当時の歴史をネットで調べたり高校の教科書で調べて楽しんだ。紹介者さんは大学の時にイギリスの歴史の講義を受け、その先生が勧めてくれたのが本書。学校の勉強では興味がわかなくても、小説から歴史をたどることで面白く学ぶことができ、いろんな方向に興味が広がっていく。

●『366日の西洋美術／瀧澤秀保(監修)』…366日分、西洋美術が図版と文章で紹介されている。政治のために絵画が使われるなど、西洋美術は歴史と深く関わっているため、美術史をたどればどういう歴史があったかがわかる。日付と絵の関連性はないが、曜日ごとに「美術史」や「主題」といった7つの共通テーマが設定され、これを毎日読めば、一年後には体系的な知識が得られることになる。
　本の紹介のあと、参加者さんの誕生日からその日の絵画を本の中から抜き出して盛り上がりました。紹介されたのは、『システィーナ礼拝堂天井画／ミケランジェロ』『セザンヌ礼賛／モーリス・ドニ』『東方三博士の礼拝／ボッティチェリ』など。
　するとここで楽しいハプニングが。紹介者さんが何気なく『塔の中の王子たち／ジョン・エヴァレット・ミレイ』の載ったページを見せて下さったところ、その絵に描かれている二人の王子が実は、前に紹介された『時の娘』のリチャード3世が殺したとされる二人だったのです！　紹介本2冊がきれいに繋がりました！
　参加者さんが見たことのある絵については、その体験談も語り合いました。またいろんなところに旅行に行きたいですね～、と話し合いました。

●『ディディの傘／ファン・ジョンウン』…韓国の気鋭の作家による小説。韓国の、ここ数十年の現代史にまつわる作品で、来月の当読書会の課題図書にもなっている。
　韓国は隣の国なのに、知っていることは少ない。日本と似ているところもあれば全く違うところもある。最たるものの一つが市民革命、市民デモであり、こうしたデモが政治や社会を動かすことがある。ただ、革命成功直後にまたクーデターでひっくり返されたりした経験もあり、韓国人はデモによる栄光と挫折の両方を心に秘めている。市井の人々は、今でもことあるごとにデモに参加するけれども、希望を持ちつつも「こんなことやっても無駄だ」という諦めも感じている。そうした意識は日本人にはないものであり、本書を読むと、小説のできごとを通して韓国に興味が湧く。政治や経済に興味がなくても、文学という入口から入っていくとすんなり頭に入ってくる。
　収録されているのは中編が2作で、どちらもラブストーリーと言えるが、その中に上記の歴史がからみ、さらにはフェミニズムや同性愛など、日本人に通じるテーマも入ってくる。2作目の「何も言う必要がない」では、語り手の思索の中で様々な本が紹介され、ブックガイド的な面白みもある。

●『武士の娘／杉本鉞子』…武士の娘として厳格に育てられたあと、結婚によりアメリカに移住した著者のエッセイ。目新しいことばかりの生活の中で、武家に生まれた矜持を失うこともなく、そうした自分自身を写し取って書かれた作品。江戸時代から明治維新の歴史の流れ、当時のアメリカの生活などが、当時に生きた人の視線から生き生きと描かれる。著者自身が歴史を体現しているともいえる。
　もともと英語で書かれたものを現代の日本語に訳してあるので、読みやすい。少女漫画『パンと懐剣／神坂智子』の原作にもなった。
　著者はかなりお転婆な女性だったらしく、その性格も文章に反映されている。初めてのチューインガムがどういうものか知らず、人からもらって食べるけれどもいつまでも飲み込めない描写も面白い。

●『絶望名言／頭木弘樹』…NHK「ラジオ深夜便」の人気コーナーが書籍化されたもので、数々の歴史上の人物の後ろ向きな発言が集められている。コロナ禍の時代、前向きな言葉を聞くよりも、誰もが苦しんでいたのだという軌跡としての言葉を聞いたほうが心に響き、励まされる。読んでいて絶望的な気持ちにはならず、人の心は何層にもなっていることを感じた。辛い時に、一緒に寄り添ってくれるような一冊。
　太宰治が日記に書いていたほの暗い気持ちから素晴らしい小説を生むなど、同じように辛い思いをしている人がいて、それでも素晴らしい作品を残すことができることを知らされる。「明けない夜もある」（『マクベス／シェイクスピア』のセリフ）、「生きている事。ああ、それは、何というやりきれない息もたえだえの大事業であろうか」（『斜陽／太宰治』）などの言葉が収録されている。

～最後に急ぎで数冊ずつ紹介～

●『じんかん／今村翔吾』…戦国時代の三悪人の一人として名高い松永久秀の人生を、フィクションを交えながら描く歴史小説。同著者の『火喰鳥』も含め、とても読みやすい。

●『すぐわかる作家別ルネサンスの美術／塚本博』『すぐわかるキリスト教絵画の見かた／千足伸行』は、イタリア旅行前に読み、旅行にも持参してとても役に立ち、旅を面白くさせてくれた2冊。イタリア美術の主流となるルネサンスの歴史、絵画の二大テーマの一つであるキリスト教について学べる。

●小説からいろんな国の歴史がわかるという意味で、2冊。『冬の犬／アリステア・マクラウド』は、スコットランドの歴史を学べる。かつて牧羊地を広げるために人間が追いやられたクリアランスという出来事があり、そうしてカナダに移住した著者がケルトを中心とするスコットランド文化を守りながら生きる人々を描く。同様に、『アイルランド・ストーリーズ／ウィリアム・トレヴァー』では、イギリスと抗争を続け、独立後も内紛が絶えないアイルランドの歴史が小説を通してよくわかる。

●『イエスタデイ・ワンス・モア／小林信彦』…バブル真っ最中の1989年から1959年にタイムスリップするSF小説。バブル真っ最中の1989年から見た1959年の様子を描く。戦後復興間もない状況で、東京オリンピックで変わってしまう前の東京の良さ、著者がいかに1989年を嫌がっていたかが伺える。1959年には山本周五郎がまだ人気作家ではなかった点なども面白い。

●『宇喜多の捨て嫁／木下昌輝』は、高校生直木賞を受賞した小説。戦国時代の備前の国で宇喜多直家が権謀術策を縦横無尽に駆使し、成り上がっていく物語。四人の娘を嫁がせたうえ、嫁ぎ先を攻め滅ぼしたような直家だが、じつは人間味もあふれる人物だったのでは。

◆まとめ

今回も、誰かの紹介本が別の方の紹介本とリンクするという醍醐味を味わわせてもらえました。本の話が別の本につながっていくのは、紹介本形式の面白さです。今回もとても楽しく過ごすことができました。参加者の皆様、どうもありがとうございました！

2020.12.13第8回読書会を開催しました！

12月6日、第8回読書会を開催しました。３回目となる課題図書形式で、課題図書は『おわりの雪／ユベール・マンガレリ著・田久保麻里訳』でした。今回、初参加のお２人を含め、合計４名での開催となりました。遠方からのご参加もあり、オンラインの特性をまた強く感じました。
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◆全体としての感想

まずは簡単な自己紹介のあと、全体としての感想をお一人ずつお聞きしました。

●二回読んだ。読むごとに味わいが出てくる。ひらがなが多くて読みやすい児童文学的な部分と、細かいリアリティに感心する部分の両方があり、語りがいがある。

●二回以上読んだ方がいいかもと思った。簡単な物語のようで簡単ではない。

●一読目はよくわからなかったが、何度か読んでようやくつかめてきた。何度読んでも、少年と犬が歩いていくシーンだけが心に残り、あとは忘れてしまう。

●重く辛いできごとが起こるけれど、嫌な感じにならず、肯定的に捉えられるのが不思議だった。

●読みやすく、入り込みやすい。徐々に少年の背景が明らかになっていくのがよい。

●タイトルやトビが何を象徴しているのかと考えながら読んだ。

●少年について大事なことも大事じゃないことも同じトーンで描かれるのは、まさに少年の生活や人生そのもの。普通の生活でドラマチックなことは起こらないけれど、その中に大事なこともきっとある、そこがリアルに描かれている。

●少年の危うさ、（特に生命に関する）未成熟な考え方などがよく表現されている。なんでここでこうするんだろう、こう考えるんだろうと思わせる。でも子供とはそんなものであり、大人が理屈で思う通りには動いてくれない。大人は少年の愛くるしさや純真さを書きがちだけど、そうじゃないところをまざまざと写し取ってくれるのがよい。

●デビュー作もそうだったが、この著者は父と子の話を書きたいのだろう。

●お父さんが子供っぽく思える。

●猫のシーンは心が痛む。猫を殺すのは家計を助けるためだと思って読んでいたら、トビを手に入れるためと知って驚いた。

●貧しさの辛さがよく描かれている。

●ラストが唐突で、ここで終わりかと驚いた。

●あとがき、解説がわかりやすく、読む助けになる。

◆疑問点

直接的なメッセージは語られず、行間を読む小説であるため、疑問に思う点がたくさん挙げられました。

●少年の年齢はどのくらい？　↓11～13歳と思う参加者が多かったが、もう少し下ではないかという意見もあった。

●ラストでベッドの木枠にキスをする意味は？　↓木枠は父親の代用。父親の死という概念がつかみきれず、現実感がない様を示しているのでは。そうすると少年の年齢はもうすこし下なのかもと思えるが、父親の死に際して実際にどうふるまうかは人それぞれ。

●ラストで少年が長靴を磨く意味は？　↓p63にある通り、長靴はもとは父親のものであり、父親から「靴をみがくのを忘れるな」と言われたことから、最後に父親への思いを込めて長靴を磨いたのでは。

●小説の舞台はどこか？　↓「ブレシア通り」「湖水地方」などの地名、登場人物の名前などからすると、イタリアだと思われる。

●「おわりの雪」というタイトルの意味は？　↓「おわり」とは少年期のおわり、「雪」といえば犬と歩いていくシーンが思い浮かぶ。あのシーンで、動物を殺すことをおわりにし、少年期をおわりにしたのでは。

◆トビとはなんだったのか

とくに大きな疑問として、トビに関することが語られました。

●トビは何の象徴か？　↓あふれる生命力の象徴。めぐまれない状況の中でみつけたトビをどうしても欲しいと思った。そのトビを手に入れるためにおこなうのが他の動物を殺すこと、という矛盾が印象的。

●この小説のトビは、日本のトビと同じなのだろうか？

●トビを飼うことと、猫や犬を殺すことは、どちらも生き物（生命）を自分の手でなんとでもできるという全能感の現れではないか。殺すことで、自分の力を確認しているのかもしれない。

●生命力の象徴であるはずのトビを買ったのに、ずっと鳥籠に入れているだけで、大空を駆けるトビのイメージとも違う気がする。

●トビを手に入れたあと、店に見に行き、もうトビはいないんだと気づくところが印象的。見に行くことが生きがいで、手に入れてしまえば目標を失ってしまう。旅行の準備をしている時がいちばん楽しいのと同じ。

◆犬を連れ出すシーン

小説全体の3分の1を占めるのが、中盤で少年が犬を連れ出すシーン。このパートについて語りました。

●なぜこんなに長いのかとも思うが、このパートは読みごたえ、解釈しごたえがある。

●老いぼれの犬より生き生きとしたトビのほうが大事、という少年の勝手な理屈。

●行って帰ることで少年が成長している。

●読んでいると息苦しくなる。風景や感覚が詳しく書かれているので、よく伝わる。犬を殺しにいくことで、生きている感覚がより生々しく感じられる。

●状況をよく考えれば、遭難したり凍死したり川に落ちたりして少年も死ぬかもしれないので、少年の通過儀礼のようにも思える。少年自身もつらい目にあうこと、自分を痛めつけていることで、犬を殺していることを正当化しようとしているのかも。

●線路に放置するのだろうか、どんな殺し方をするのか、と読みながらどきどきした。追ってくる犬を放置するのは、ある意味最も残酷な方法であり、このことを少年はずっと引きずっていくのではないか。

●帰り道で犬を探している風に装うことで、自分への言い訳にしている。「探したけど見つからなかった、だからしょうがない、自分は悪くない」と思おうとしているのでは。

◆生命倫理

作中、少年特有のゆがんだ倫理観が描かれますが、よく考えてみれば大人の倫理観だって怪しいものです。

●最初に猫を殺すとき、少年が方法をすぐに思いつくところは意外だった。少年はネズミの殺し方からヒントを得たのかも。

●結局、猫や犬を殺してほしいと頼むのは大人たち。死を理解するのは、大人でも難しい。とくに自分の死や自分の身内の死をちゃんと捉えているかは怪しいところ。猫や犬を殺すことには罪悪感があるのに、ネズミやゴキブリや蚊を殺すのは平気だったりする。そのほか、もっとも忌避すべき死をエンターテインメントとして消費したりなど、大人の生命倫理だって十分に怪しい。

●猫を殺すことについては、直木賞作家の坂東眞砂子さんが、自分では育てていけない子猫を崖から落として殺していた事件を思い出した。（詳細はこのページなど）

◆お母さん

父親に比べて影の薄い母親ですが、やはり重要な存在ではありました。

●お母さんの仕事は具体的に書かれていないが、お父さんの反応などから、良くないことをしていることが伺われる。

●お母さんはとてもいい人だけれど、生活のために仕方なくそういう仕事をしている。父親の年金や少年の稼ぎがそれほど多いとも思えないので、お母さんの稼ぎがかなり生活を支えているのでは。

●夫婦の会話がほとんどない。夫婦仲は悪くないのだろうが、お母さんがそういう仕事をしていることで、溝が深まっている。

●お母さんはとてもかわいそうだし、あまりいいシーンがない。

●少年はお母さんの仕事をなんとなくわかっていて、それがお父さんを悲しませることを知っている。だからお母さんに厳しい。夜、出かける時に自動消灯スイッチが音を出さないように、と少年がずばっというシーンなど。

●声を出さずに泣くシーンが二回ほどあり、とても悲しい。すごく我慢している、耐えているという印象。

●少年が眠れない時に水道の蛇口をゆるめて水滴を垂らし、その音で眠りにつくと、朝には必ずお母さんが蛇口をしめているシーン。お母さんは、蛇口を閉めろとか、なぜ蛇口をゆるめているのかということを一切聞かない。とても優しい愛情だと思う。

◆ボルグマンの苦悩

少年がアルバイトをする養老院の管理人ボルグマンも印象に残る人物であり、重要な役割を果たしています。

●猫や犬殺しを、止めようと思えば止められたのにそうしなかった自己嫌悪、罪悪感をボルグマンは抱いている。

●誰かがやらなければならないのなら、彼はその痛みを自分で引き受けようとした。

●ボルグマンと少年の交流が印象的。口下手でおとなしい、似た者どうしの少年と二人で過ごす時間は、読んでいて幸せな気持ちになる。唯一話せる大人だったボルグマンのために少年は罪を犯すのだが、そのせいで最終的に二人が決別するのも切ない。

◆語りの秘密

本作は少年の物語ではありますが、じつは大きくなったかつての少年が過去を振り返る形式で書かれています。随所に現代から振り返っていることを思わせる記述がありますが、そこで物語が重層的になり、深みが出ています。

●〈ぼくはいま、あのころ起きたすべてのことを理解しなおそうとしている〉(p118)…この小説のテーマであり、書かれた理由。だから本作で描かれる内容は事実ばかりではなく、想像したり、作り直した部分もある。第6回読書会でも紹介した『マザリング・サンデー／グレアム・スウィフト』との類似（該当部分はこちら）。

●ラストの〈いまでもときどき考えることがある。あれはぼくが実際にしたことなのか、それともしたいと思っただけなのかと。どちらでもおなじことだ、そう思うのがぼくは好きだ〉〈ぼくがいちばん好きなのは、正確に思いだそうとしないことなのだ〉はテーマに触れる大事な箇所。

◆勝手に深読み

書かれていないことを想像するのも読書の楽しみ。とりわけ本作にはそうした余地が多くあります。皆様の“勝手に深読み”をお聞きしました。

●あとから思い返しているという構造の中で、犬の殺し方は実はもっとひどいやり方だったのを、やわらげて書いているのでは。

●この少年は大人になって人を殺すような罪を犯してしまい、少年時代を振り返って過去を塗り替えよう、理解しなおそうとしているのでは。

●少年は本当にトビを手に入れたのか？　本当は雪の日にトビは死んでいて、それ以降は全て少年の作り話なのでは。

◆その他、印象に残ったシーン

●(p65)明かりを消して父にトビの話をしていると、台所からもれてくる光が変化し、母がドアの向こうで聞いているのがわかるシーン。

●光や明暗の対比がしっかりしており、色のイメージが豊か。色について抜き出すと、「黒とピンクの仔猫(p22)」「青と灰色の車(p23)」「こげ茶色の犬＆鮮やかなスカーフの老婦人(p24)」「黒とピンクの小さな幽霊＆黒い外套と黒い帽子(p29)」「赤とオレンジ色の空(p35)」「夕焼けに染まる女性の髪の茜色(p43)」「赤と緑の格子柄のマフラー(p52)」「ネオンサインの緑と白(p60)」「丘はくらい深緑色(p73)」「雪の下の凍った沼の青＆沼に黄色い水草(p79)」「黄色い太陽(p82)」「灰色の空が黄色くなる(p88)」「灰色に黒ずむ雪(p131)」など。

【まとめ】

ずっと好きで何度も読み返してきた小説でした。この本についてこんなにたくさん話せたのは初めてで、主催者として選書する特権があるのを申し訳なく思うくらい、自分が楽しみました。参加者の皆様、本当にありがとうございました！

2020.11.3第7回読書会を開催しました！

11月1日、第7回オンライン読書会を開催しました。「旅」というテーマで、おすすめ本を紹介しあいました。
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◆紹介された本

●初っ端は主催者の春名が『パタゴニア／椎名誠』を紹介。すると常連の参加者さんから、「私も用意してました」と同じ本を見せられ、一気にヒートアップ！　椎名氏といえばいろんな秘境を仲間たちと旅し、その様子を体育会系のノリでわいわい紹介するエッセイがライフワークだが、本作は色合いが違っている。直前に奥様が精神に不調をきたし、不安を抱えながら椎名氏はパタゴニアへと旅立つ。旅の準備をするのはいつも奥様の役目で、椎名氏が現地に到着後スーツケースを開くと、一輪のタンポポが入っていた。言葉にならない妻からのメッセージだった。もちろん旅先で出会った風景や人々、食べ物などの描写は相変わらずなのだが、折に触れ妻のことを考えて過ごす日々。椎名氏は現地で拾った三角形の石に穴を穿ち続け、遂に穴があいた石に紐を通して妻へのプレゼントにする。
　副題にある「風とタンポポの物語り」の〈風〉が椎名氏、〈タンポポ〉が奥様のことを表す。いつもの賑やかエッセイではない、しっとりとした作品に仕上がっている。春名としては椎名氏の著書の中でもいちばん好きな一冊で、本書を読んだあと、1998年にパタゴニアを実際に旅することになる。椎名氏の泊まったホテル、ホテルから海へ続く道、訪れた金物屋など、描かれている場所を一つ一つ訪ね歩き、とても良い旅となった。

●『紳士協定／佐藤優』…著者が外交官になって初めて訪れたイギリスで出会った少年との交流が描かれる。少年は佐藤氏に英語を教え、佐藤氏は日本の文化や社会状況を教える。12歳の少年を一人前の人間として扱う佐藤氏に少年は惹かれていく。二人のいきいきとした会話、そこから見えてくるイギリスの根強い階級社会、そして食べ物の描写も素晴らしい。少年は労働者階級ながら頭がよく、佐藤氏は是非このまま大学へ進むことを希望するが、佐藤氏がイギリスを去り、交流が途絶えてしまった後、少年はどうなったのか――。
　佐藤氏の著作では他に、上著で少年を対等に扱う理由がわかる、自身と恩師との交流をつづった『先生と私』、十五歳で初めてヨーロッパへ一人旅した時のエッセイ『十五の夏』、スパイミステリのような醍醐味が味わえる『国家の罠』などもお勧め。

●『江戸アルキ帖／杉浦日向子』…日曜日ごとに江戸にタイムトラベルをし、江戸のスケッチを描くという設定の絵日記。庶民が普通に暮らしている様子がリアルに描かれる。江戸研究に通じた著者ならではの知識がうかがえ、自分がタイムトラベルしたように思えるのも楽しい。

●『最後の殉教者／遠藤周作』…若いころ無理やり洗礼を受けさせられた著者は、ずっとキリスト教に疑問を抱き続けた。強くあれと要求するキリスト教に対し、弱い者を救うことこそ宗教ではないのかと反発する。小説もそうしたテーマが多いが、読みやすい大衆小説も多く、本作もその一つ。遠藤氏が留学したリヨン、訪れたパリでの出来事が私小説風に描かれる。主催者・春名は本作をたずさえて2001年にリヨンを旅し、遠藤氏の住んだ下宿前の大通り、通った大学、訪れた動物園など、小説に出てくる風景を訪ね歩いた。ちなみに、当時の講談社文庫のフォントはとても読みやすくて好き。

●『港町食堂／奥田英朗』…『最悪』などで有名な直木賞作家の著者が書いたエッセイ。フェリーで全国あちこちを旅し、その風景や出会ったことを描く。これを読むとフェリーに乗りたくなる。
　同著者の、野球の試合を見に全国を旅する模様を描いた『野球の国』もお勧め。野球を見て映画を見て帰ってくる、そんな気ままな旅がとても楽しそうで、野球場に行きたくなる。また、『東京物語』は、若者が田舎から初めて東京へ出てきてどう感じたか、著者の体験を交えて描かれる短編集。

●『犬が星見た／武田百合子』…作家・武田泰淳の妻にしてエッセイストの百合子氏が、かつて夫婦でロシアを鉄道で旅した時の記録。1960年代という時代のせいか、突拍子もないようなことも起こるが、それらがありのままに描かれる。行く先々で出会う人や風景、同行の旅行者の描写など、著者の視点がユニークで新鮮で天真爛漫。

●『旅をする木／星野道夫』…主催者・春名が読書会で何度紹介したかわからない一冊。著者は写真家が本職で、文章修行をしたわけでもないのに、平易な文章で深く本質を突いてくる。常識にとらわれない、エコロジストや動物愛護とはまた違った考え方を示してくれる。原野で一カ月たった一人きりでおこなう著者の撮影行、アラスカの入り江で暮らし、一年前の新聞を一日分ずつ読む男性の話、たまにニューヨークなどの大都会に行けば、そこで暮らす人々も否定しない、そういう数々の文章を読んでいると、人間はどう生きてもいいのだと思えて励まされる。

●旅行とは普通、行って帰ってくるものだが、帰ってこない人も出てくるのが、『ASIAN JAPANESE―アジアン・ジャパニーズ／小林紀晴』。バックパッカーである著者が出会った人々を描く。旅行に行ったきりになった人、旅先で精神を病んでしまった人の記述など、必ずしも旅行をポジティブに捉えていない、毛色の変わった一冊。旅にはいい面と悪い面、両方あるのは確かで、人生との共通点を思わせる。

●『トリエステの坂道／須賀敦子』…イタリア人と結婚し、ミラノに長く住んだ著者の綴る旅と日常のエッセイ。トリエステへのひとり旅を描いた表題章では、深夜に空港に降り立つ場面からして趣がある。トリエステでは、夫妻で思い入れのあった詩人サバの経営する書店を訪ねるのだが、今は別の人が引き継ぎ、店名も詩人の名を冠したそっけないものに変わっていた。かつては港町としてにぎわい、今はさびれてしまったトリエステを歩きながら、詩人や夫への思いが浮かんでは消えていく。著者が歩くすぐ後ろを歩いて覗き込んでいるような気分にさせてくれる一冊。主催の春名も本書を読み、ローマの教会にあるカラヴァッジョの絵を見て感激するシーンなど、同じ体験をしたことから大いに共感した。

●『蓑虫放浪／望月昭秀著・田附勝写真』…幕末から明治に生きた、蓑虫山人と呼ばれる画家の評伝。彼は折り畳み式の家を背負い、日本全国を旅した。旅先でいろんな人と仲良くなり、酒を酌み交わす。宴席や旅先の絵を描き、出会った人に贈っては喜ばれた。そうした絵日記と共に、有名な遮光器土偶を掘り当てたうちの一人だったり、西郷隆盛や勝海舟と交流があったりなどといった多彩なエピソードが紹介される。

～最後に急ぎで数冊ずつ紹介～

●動物が旅をする本をいくつか。『ベルカ、吠えないのか／古川日出男』は、第二次大戦時にキスカ島に残された犬がアメリカに渡り、純血と雑種の二系統で別々の子孫を繁栄させていたのが、何系統かのちに巡り合う物語。話は戦後の冷戦に及び、最後はロシアンマフィアとチェチェンマフィアの抗争に日本のヤクザも巻き込まれ、壮大で超一級品のエンターテインメントが展開される。本書に似た構造を持つ『その犬の歩むところ／ボストン・テラン』は、1匹の善良なる犬がアメリカを放浪する過程でハリケーン・カトリーナやカリフォルニアの山火事に出会い、人を助けるために活躍する話で、いわば犬による歴史の裏面もの。『ティモレオン／ダン・ローズ』でも同様に、飼い主の元から遠く離された犬が、元の家に戻る過程で様々な人たちと出会い、それが連作短編のように語られる。一つ一つのエピソードが美しいのだけれど、その対比としてこの小説のラストはすさまじく、いろんな意味で心に焼き付けられる一冊。
　犬の旅や冒険を描く小説が多くある一方、珍しく猫の冒険譚となるのが『猫の帰還／ロバート・ウェストール』。一匹の猫がやはり家族と引き離され、そこから旅をする物語。旅先で出会う人たちとのエピソードがとても良くできていて、児童文学だけれど大人が読んでもじゅうぶん楽しめる。
　そのほか、絵が好きなので『フェルメール全点踏破の旅／朽木ゆり子』、イタリア旅行の前に読んでとても旅が楽しくなった『すぐわかる作家別ルネサンスの美術／塚本博』『すぐわかるキリスト教絵画の見かた／千足伸行』など。

●小さな南の島に住む少年が経験する出来事を綴った連作短編集『南の島のティオ／池澤夏樹』。冒頭の「絵はがき屋さん」では、少年ティオと父親の経営するホテルに絵はがき屋さんがやってくる。ある風景の絵はがきをお客さんが買って手紙を出すと、もらった相手は必ずそこを訪れるという話。著者が実際に滞在した南の島が舞台のモデルとなっている。著者は星野道夫さんや須賀敦子さんとも交流があった。
　『声をなくして／永沢光雄』は、有名なルポルタージュ『ＡＶ女優』の著者が癌を患い、その闘病中に書かれたエッセイ。癌患者なのに酒を飲み、薬も焼酎であおるダメダメな毎日。貧乏でしょうもない話を綴った『貧困旅行記／つげ義春』と共に、なぜか癒される二冊。そのほか、日本人が各国の様子を紹介した滞在記『スペイン子連れ留学／小西章子』や、『英国貴族と結婚した私／マークス寿子』など。

●皇太子になれなかった親王がインドに向けて旅をする『高丘親王航海記／澁澤龍彦』。漫画化もされている。夢と現実が交じり合いつつ、当時の東南アジアの神秘的・幻想的な描写が美しくて怖い、悲しいんだけれど明るくてユーモラスな一冊。

◆まとめ

上記のとおり、大量の本が紹介されました。まさに打てば響くというか、誰かが紹介した本を別の方が別の視点で語ったりして、読書好きの集まりならではの盛り上がりを見せました。僕などぜんぜん知らない本もたくさん出てきて、皆様の興味の幅には感服しました。そして、旅先に本を持っていけること、読書で旅と同じ経験ができることなど、旅と読書というのは実に相性がいいものだと再認識でき、とても有意義な会となりました。参加者の皆様、どうもありがとうございました！

2020.10.17第6回読書会を開催しました！

10月11日、第6回オンライン読書会を開催しました。二回目となる課題図書形式で、課題図書は『灯台守の話／ジャネット・ウィンターソン著・岸本佐知子訳』でした。なんと今回は参加者3名全員が初顔合わせ！　初めての読書会に参加することはあっても、自分の主催する会でこうした状況になるのは初めてでしたので、いつもに増して緊張感を持って臨みました。また、これまでは近隣にお住いの方ばかりでしたが、今回はネットで告知をご覧になり、かなり遠方からのご参加があったことも嬉しいニュースでした。
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◆全体としての感想

まずは簡単な自己紹介のあと、全体としての感想をお一人ずつお聞きしました。

●崖に刺さった家に住むオープニングからして“つかみ”は完璧で、いろんなイメージが湧いてくる。

●前半は子供が話す形式なのでファンタジーかと思ったら、ダークな内容も出てきて戸惑った。男女の交わりの場面など、生々しい描写も急に出てくる。

●いろんなテーマが隠されていて、それらを読み解いていくのが面白い。

●読んでいるだけで幸せな気分になる。

●二つのものを対比させている。バベル・ダークとバベル・ルクス、神と進化論、男と女、愛と自然、等々。それらは対立しながら互いに否定もしないので、どちらが善か悪かと言い切れず、どちらも大事。

●光や闇が広い意味で使われている。

●シルバーの生まれとピューの生まれが重なるような設定になっている。

●実在の人物や史実と融合していくのも面白い。著者の自伝的要素もある。

●人間の思考や記憶とは断片的なものであり、それをそのまま表したのがこの小説。

●いい小説を読むと、読んだあとまで引きずる。

◆表現や比喩のうまさ

参加者全員から、本作における独特な文章表現の素晴らしさが語られました。機知やユーモアに富み、味わい深い文章が多く、一文でいろんな情報を伝える技巧のうまさもあります。

●〈男たちがバドミントンのシャトルのように海に放り投げられた〉〈カモメと夢だけが、ここをねぐらにする〉〈母さんは分娩台の上で八時間も時を滑空するスキーヤーのように脚を広げていた〉など、どれもが面白く、納得させられ、イメージが広がる。

●灯台や海の比喩が多彩で、それらを考えながら読むのが面白かった。

●〈自分の人生の異邦人〉〈太陽の蒼ざめた寄宿人〉など、すぐに意味がつかめず、どういう意味なのかを考えるのも楽しい。

◆読みづらさ、わかりづらさの効能

面白い小説である反面、読みづらいという意見もありましたが、それは決して否定的な意味合いではありませんでした。

●時系列がばらばらで人物関係も入り組んでいるため、わかりづらい面もある。二回目、三回目と読んでいくとそのあたりがわかってきて面白くなる。

●ピューが語る物語という形式ながら、バベル視点の記述がはさまれたり、別の物語がそのまま挿入されたりする。いろんな人の声で成り立っている小説。

●視点人物を自在に変えながら〈あなた〉〈わたし〉という人称で書かれるため、すこし混乱した。わざと誰が言っているかをあいまいにし、複数の人々の共通認識として表現しているようにもとれる。

●シルバーが最後に結ばれるのが、男性かと思ったが実は女性。シルバーよりかなり大柄だから男性のように思える。

●できごとに完全な理由づけがなされないことが人間の複雑さをあらわし、小説に深みをもたらす。意味合いは読者が自由に補うことができる。いい小説は、疑問がいくつか残るものだ。

◆疑問点

しっかり読んでいても、どうしてもわからない点が出てきます。そのあたりを披露しあいました。

●バベルはなぜ牧師になったのか？　モリーとの最初の別れのショックはあっただろうが、牧師になるような伏線はまったくない。

●バベルとモリーが最後に別れたのはなぜか？　自分はモリーと結婚できないという運命論か、あるいはこんな自分が彼女を幸せにはできないという諦めか、モリーを誤解していたことの罪悪感、そうした自分への戒めなのか。

●バベルは最後、自殺したのか？　自殺しても不思議ではない状況だし、〈彼は溺れ死んでいた〉という文章は、比喩ではなく事実のようにも取れる。海で難破したとき物語を語り続けて助かった男との対比として、バベルは物語を語るすべを持たなかったから死んだという解釈もできる。なぜなら本作は、物語が救いになる、光になる話だから。

◆印象的なシーン、キャラクター

その他、印象に残ったシーンなどを語り合いました。

●バベルとモリーが初めて結ばれるシーンで、モリーがすでに男性を知っていたことを、バベルが必要以上に驚く。現代人の感覚とは異なるが、本作の時代性やバベルの牧師という立場からすれば妥当なのかも。

●ネガティブな世界観を持つミス・ピンチのキャラクターがいい。シルバーに対し、存在を否定するようなひどいことを言うが、最後に彼女の素性が明かされ、なんとなく納得させられもする。同様に図書館員もひどいが、どちらもユーモアをもって描かれている。シルバーが本を盗んだり鳥を盗んだりといったシーンでも、著者のすぐれたユーモア感覚が披露される。

●「お話しして、ピュー」から「お話しして、シルバー」に変わるところ。ここからシルバーの語りになり、おそらく最後に出てくる恋人の女性に語りかけている。

●自然の猛威と愛の共通性。予定調和のようにバベルとモリーは結ばれない。愛は理屈では片づかず、愛し合っているのに二人は別れてしまう。愛は災害のように非情で、容赦ないものだ。だからシルバーと恋人の行き先も決して安泰ではない。…小説のラストで、〈アイ・ラヴ・ユー／この世でもっとも難しい、三つの単語〉と表現されている。「この世で最も美しい」とか「大事だ」ではなく、「難しい」というところがポイント。

●シルバーの恋人の〈指の長い、節の高い手〉という描写が、ジョサイア・ダークが見たピューの〈クモの脚のように長く、節の高い指〉という描写に重なる。つまり、シルバーの恋人とピューとが重なるイメージで描かれており、シルバーが最後に結ばれるのがピューと似た人だった、と解釈できる。

◆関連図書

●『優しい鬼／レアード・ハント著・柴田元幸訳』…物語を語ることについて書かれた本として紹介された。アメリカ南部に生きた女性の語る陰惨な過去。酷い目に遭い、自らも酷い行いをした記憶。それらが人々の多層的な“声”により紡がれる。

●『マザリング・サンデー／グレアム・スウィフト著・真野泰訳』…老いた女性作家が自らの過去を振り返るが、それは事実ばかりではなく、「もしこうなっていたら」「こうだったら良かったのに」といった願望も含まれている。課題図書におけるピューやシルバーの語る物語も、嘘か本当かわからない。突き詰めれば人生とは記憶であり、所詮はあいまいでいい加減なものだから、そこに嘘があっても構わないのではないか。

【まとめ】

最後に、下記の内容を確認しました。やはり、一人の読書では気づかないところを教えてくれる意味で、今回も存分に読書会の醍醐味を味わうことができました。本当に楽しかったです！

●エンタメ小説（とくに日本の）においては、面白く読めるけれど読み終えた後になにも残らない作品も多い。翻訳小説は、飲み込みづらさ、多様さがあり、考えて自分なりに解釈しないといけない。長編だとしばらく読まないと面白みもわからない。だから読むのに苦労するし体力も使うけれど、そのぶん読みごたえがある。

●今回の岸本佐知子さんのように、翻訳家や書評家で本を選ぶこともある。

●翻訳小説を読む人は本当に少なく、周りにいないから、こういう会は貴重。

●一人で読んでいると解釈に迷うところも、ほかの人にそうかもしれないと言ってもらえると確信となり、嬉しい。

2020.9.13第5回読書会を開催しました！

9月6日、第5回オンライン読書会を開催しました。「家族」というテーマで、おすすめ本を紹介しあいました。今回は、一冊の本が紹介されるたび、その内容に絡めて次の本が紹介される、という数珠繋ぎの様相になりました。
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◆紹介された本

●『心臓を貫かれて／マイケル・ギルモア著村上春樹訳』…アメリカ犯罪史で有名な死刑囚ゲイリー・ギルモアを弟マイケルの立場から描いた傑作ドキュメンタリー。祖先何代にもわたる血塗られた暴力の歴史から、ゲイリーが死刑囚にならざるを得ない経緯が明らかになっていく。家族の負の面を考えさせられる一冊。村上春樹の熱の入ったあとがきも読みどころ。
　ゲイリーの事件を追ったルポルタージュは、先に『死刑執行人の歌／ノーマン・メイラー著岡枝慎二訳』が出版されているが、こちらは有名ジャーナリストがゲイリーを取材して書いたもの。上下二段600ページほどが二巻という膨大な書物だが、マイケルいわく、「ゲイリーが犯罪を犯す動機や背景が書かれておらず、不十分だし読み物としてつまらない」「資料的な意味合いしかない」とのことで、だから自分で本書を書こうと思い立ったらしい。

●『心臓を貫かれて』の著者マイケルが、「こうした暴力の歴史を途絶えさせるため自分は子供を作らない」という、その言葉を受けて紹介されたのが『夏物語／川上未映子』。本作にも、絶対結婚したくないし子供も欲しくない、善百合子という女性が出てくる。育ての父親に度重なる性的虐待を受け続けてきた彼女は、パートナーを伴わない出産を望む夏子に対し、「もしあなたが子どもを生んでね、その子どもが生まれてきたことを心の底から後悔したとしたら、あなたはいったいどうするつもりなの」「どうしてこんな暴力的なことを、みんな笑顔でつづけることができるんだろうって。生まれてきたいなんて一度も思ったこともない存在を、こんな途方もないことに、自分の思いだけで引きずりこむことができるのか、わたしはそれがわからないだけなんだよ」と問いかける。

●「精子提供で子供を作る」「本当の父親を探そうとする」というコメントから、映画『キッズ・オールライト』。レズビアンカップルがそれぞれに精子提供を受け、子供を一人ずつ産み、育てている。思春期になり、自分の父親を探して会いにいこうとする子供達に、両親は困惑する。

●親子のかみ合わない情愛を描いた私小説『幸福の絵／佐藤愛子』。離婚を二回くりかえした女性の元に、最初の結婚で生まれ手放した娘が会いに来る。うしろめたい思いを抱きつつ母親は娘と会う。娘は自分のルーツを知りたいと願うが、親はかつての行為の負い目から、昔のことを話せない。

●家族について、「やましい」というキーワードが提示された。こうなるべきなのになれなかったやましさを抱えているものだと。そこから、『たそがれてゆく子さん／伊藤比呂美』。『良いおっぱい悪いおっぱい』で有名な詩人のエッセイ。
　二度目の結婚で生まれた子供と渡米し、再婚したアメリカ人と共に暮らす著者。子供達はなかなか適応できずに苦労し、親は無理やり彼らをアメリカに連れてきたことを後悔する。その後、夫の介護をして看取った経験から、あんなに何にもできない人でも、いるのといないのとでは全然違う、と感じることに。死に際して、家族の形がはっきりするということか。

●生みの親と育ての親、というキーワードから、『ねじれた絆／奥野修司』。実際に起きた赤ちゃん取り違え事件を長期に渡って取材した渾身のルポルタージュ。是枝裕和監督の映画『そして父になる』の元ネタ。
　子どもが小学校に上がる年齢になって実の親子ではないと知らされた場合にどうなるのか、という難しい問題が提示される。ずっと家族として過ごしてきたのだから、そのまま育ての親と暮らせばいいのではと思うけれど、ことはそう単純に運ばない。

●子供が親にやましいと思う気持ちから、漫画『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ／永田カビ』。親が絶対的な存在で、親に認められたい一心で生きてきた著者が、徐々に精神を病んでいく。
　一念発起でアルバイトを始めた彼女に対し親は、「でもバイトでしょ？」と軽く一蹴する。子供のままでいるほうが両親がかわいがってくれるから、大人になってはいけないと思い、だから男性に性的興味が持てず、レズ風俗に行ってしまう。結局、いろんなことを飛ばしてそういう経験をしてもうまくいかないと気づき、自分の人生を見つめるきっかけになる。
　本作の紹介では、親子の距離感が大事というポイントが提示された。考えてみると、悩みのほとんどは親子の問題という気がする。「子供には転ぶ権利がある」の言葉どおり、親はある時点で子供から手を引く必要がある。子供が自分だけでやってみることで成長する。親は、何も手を出さない、何もしないでいてあげるという愛情を示すべきでは。

●休憩をはさみ、別の流れの作品が紹介される。『父と息子のフィルム・クラブ／デヴィッド・ギルモア』は、カナダ人の作家兼映画評論家が、自分と子供のことを描いたドキュメンタリー。学校を辞めたいと言い出した子供に父親は、学校を辞めるかわりに映画を毎週一本見ることを提案する。父は息子のためになるような映画を選んで見せるのだが、子供はその思いをうまく受けとめてくれない。毎週の映画鑑賞がつづくが、実は父親自身も女癖が悪かったり、金銭感覚に問題があったりすることが判明していく。親子ともども駄目だけれど、憎めない。映画ガイドにもなる一冊。

●上記の父子関係から連想したのが、『パパ・ユーアクレイジー／サローヤン』。両親が離婚し、娘は母親と、息子は自分と暮らすという、サローヤンの自伝的小説。こういう「駄目なお父さんが頑張るモノ」ってあるよね、という流れから、映画『クレイマー、クレイマー』『そして父になる』、小説『キッドナップ・ツアー／角田光代』などのタイトルも挙がった。

●父子ではないけれど、駄目で情けない男モノとして軽く読める小説、『桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活／奥泉光』。気弱で無能でぐうたらな桑潟の周囲で起こるちょっとした謎を巡り、物語が展開する日常系ミステリ。解決するのは桑潟ではなく、彼が勤務する大学のホームレス女子大生。

●父子モノとして、『なるほどの対話／吉本ばなな＆河合隼雄』という対談集。吉本ばななさんの父・吉本隆明氏とのエピソードが面白い。ほとんど喧嘩しなかった父娘だったが、ある時、「寝る前に雨戸を閉めろ」という父に対し、朝日を浴びて起きたい娘（ばなな氏）とが対立する。初めての喧嘩の理由がそれか、という脱力感があるが、これを河合氏が褒める。いわく、親はなんでも許すより、理不尽であってもこれは絶対にダメだ、こうしろという部分があってもいいのではないか。それが勉強しろとかじゃなく、雨戸を閉めろというところだったのがすごくいい、との指摘。『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ／永田カビ』のように、親が壁になるばかりでもいけないが、何も壁がないのもよくないのでは。

●最後にすこし毛色の違う小説として、『星の子／今村夏子』。カルト宗教にはまった両親を持つ娘。周りからは奇異の目で見られるけれど、自分には普通の家族だし、とくに問題とも思っていない。この家族は間違っているのかどうなのか、読んでいる者も考えさせられる。奇跡の水を浸したタオルを頭に乗せ、緑色のジャージを着て公園にいた両親を、娘の友達が「カッパだ」とはやし立てるシーンが印象的。

◆まとめ

参加者さんから、「家族というテーマで選ぶのが難しかった」「家族について考えるきっかけになった」というお言葉を頂きました。テーマ本紹介の場合、そのテーマに関する参加者の考察、テーマに対する向き合い方の違いを知ることができ、事前に本を選ぶところから読書会が始まっていることに気づかされました。一作紹介するごとに、それに関連した別の作品が紹介されるという流れも、とても面白かったです。

2020.8.15第4回読書会の動画を公開！

8月2日に開催した第4回オンライン読書会の模様を、参加者の皆様の同意を得たうえで、ネットで公開しました！　とてもいい議論になったと自負しています。
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2020.8.7第4回読書会を開催しました！

8月2日、第4回オンライン読書会を開催しました。今回は初の課題図書形式で、課題図書は『最愛の子ども／松浦理英子』でした。一見読みやすいけれど実は凝った作りで、読み込むには手ごわい作品でした。
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◆全体としての感想

まずは皆さまから、全体的な感想をいただきました。

・読み始めは普通の学園ものかと思っていたら、〈わたしたち〉という主語に気付いて印象が変わった。本作は単なる物語小説ではなく、「視点の小説」であり、文学的挑戦をしている。

・著者の過去作『裏ヴァージョン』に、パパ、ママ、王子様と呼ばれる3人の女子高校生というアイデアだけが描かれており、本作はそれが形になったもの。

・あこがれの先輩の存在など、共感できる部分はある。（女子高出身の方のご意見）

・女子高生の話だけではなく、家族の話でもある。

・母親世代と娘世代でいえば、母親世代に感情移入した。

・女子高生の会話にやや不自然さを感じた。

・クラスの非主流派（マイノリティ）の立場から書かれている。

・階層的な面白さがある。女子高生を活写した青春小説として軽く楽しく読めるが、語り手の問題や新しい関係性の模索などのテーマを掘り下げて読むこともできる。

・文庫版81ページで、フィクションを読む時に〈男にも女にも乗り移りながら読む〉という箇所が新鮮だった。自分なら、必ず女性の立場から読む。（女性の方からのご意見）

◆ある一時期の出来事

本作で描かれる世界が、「特別なある一時期の出来事だ」という捉え方が重要だという意見がありました。高校生という貴重で美しい一時期を過ぎたらどうなるのか、これからどんな大人と出会い、どんな大人に自分たちがなっていくのかという不安を登場人物達は抱えています。また、生徒たちはどうしても学校生活に関心が集中し、そこが世界の全てだと思ってしまう傾向があるという意見も出ました。

◆新しい関係性の提示～恋愛編

日夏と真汐、空穂の関係が最後は性愛に発展するのではと思って読んだ、という意見がありました。よくある小説なら、最後までいってしまうか、逆にプラトニックを貫くかのどちらかですが、本作はそのどちらでもありません。肉体関係までは発展しないけれども、肉体的な接触の快楽を否定してもいない、この絶妙なラインが非常に現代的であり興味深いところです。彼女ら三人による、友情でもなく恋愛でもない、新しい関係性が提示されていると言えるでしょう。著者の松浦さんはこれまでにも一貫して、性器結合を伴わない性愛のあり方を探ってきた作家さんです。『犬身』では人間と犬という、種を超えた関係性まで提示されました。

◆新しい関係性の提示～家族編

新しい関係性という点でもう一つ、家族への言及もありました。主役三人はいずれも家庭環境に問題を抱えています。たとえば文庫版190ページ、空穂が母親から〈これがあんたの人生最高の晴れ舞台〉と言われるシーン。これからまだ何十年と生きていくのに、これが人生最高なんて決められるのは辛いことでしょう。他にも、猫のしつけを参考に育てられた由芽理など、家族の問題を抱える生徒はたくさんいます。本作がまた凡百の小説と異なるのは、家族の絆を再生しようという方向には全くいかず、新しい家族、新しい共同体で生きていくことが示唆されているところ。家族という枠にとらわれず、疑似家族で生きていけばいいのでは、という提案です。家族でいられないなら、外国に行ってもいいし、単に別居するだけでもいい。家族に人生を駄目にされることはありません。

◆フェミニズム

本作では、女子高生と大人との対立も強調されています。大人たちの無神経な発言は目に余るほどで、たとえば文庫版101ページ。真汐の伯父が放つ、〈真汐も光紀みたいな顔だったらよかったのにな〉という言葉。韓国ほど露骨ではないにせよ、日本にもまだまだ男女差別は残っています。参加者からも、おもに母親との関係において男子と女子とは違う、母親はどうしても男の子に肩入れしがちだという意見がありました。

◆キャラクター小説

主要三人の他、他の登場人物たちにも味があります。とくに印象的だったのが、美少女の苑子。何も考えず能天気に生きる彼女は、男子クラスのボス鞠村尋斗（まりむらひろと）と付き合い始めるものの、また気まぐれに自分から別れを切り出します。挙句、「いいことばっかりは続かないよ」とまるで他人事のよう。そんな彼女を見て〈わたしたち〉は、〈心が乏しければ乏しいほど強い〉〈苑子最強〉と感心するのです。たしかに実生活でも、真面目に考えて行動する人ほど傷つきやすく、ふだん何も考えていない苑子のような人が楽に生きて長生きしそうな気はします。参加者からは、「幸福についていろいろ考えている人は幸福じゃない」という主旨の、吉本ばなな氏の言葉も引用されました。

いっぽうの鞠村は女子クラスが気になって仕方がないようで、つまらないエロ写真を女子生徒に渡したりなど、ひどく幼稚に描かれています。また、美織の両親が良い大人の代表として描かれ、確かに示唆に富んだアドバイスを贈ってくれますが、参加者からはややきれいに描かれ過ぎだという声が多かったです。

◆〈わたしたち〉問題

本作において最も大きな特色と言えるのが、〈わたしたち〉という不思議な視点人物の存在です。読み始めでは登場人物の一人が書いているのかと思った参加者もいました。〈わたしたち〉とはいったい誰なのか、なぜこのような主語が使われているのかという議論で今回は盛り上がりました。

まず、〈わたしたち〉が誰なのかを特定することに意味はなさそうです。〈わたしたち〉とは共同体そのものであり、ある一時期の女生徒全般の持つ意思、と捉えるのがいいのではないでしょうか。そもそも、なぜこの〈わたしたち〉という主語が使われているのかは、本文で明確に記載してあります。

わたしたちは小さな世界に閉じ込められて粘つく培養液で絡め合わされたまだ何ものでもない生きものの集合体を語るために「わたしたち」という主語を選んでいる。（文庫版66ページ）

この〈わたしたち〉が、日夏、真汐、空穂の三人を描写していくわけですが、書かれているのは真実ばかりではありません。〈わたしたち〉が主人公三人に対して抱く、「こうだったらいいな」「こうあってほしい」という妄想が含まれているのです。ただし、妄想パートについては、〈こんなふうであっただろう〉とか〈ここからのわたしたちの妄想場面〉など、明確にそれとわかるように書かれています。決して、「現実と妄想が入り乱れる小説」ではないのです。

なぜこうした形式がとられているのかについて、登場人物の言動や真意をわざと決めつけないようにするため、という意見がありました。小説でもノンフィクションでも、必ず著者の意向が入り、真実の姿が歪められます。だから、勝手に登場人物を断定して書くことは暴力的な行為であり、それをしたくなかったのがこの小説なのではないか、だからわざと〈わたしたち〉の想像として、登場人物達の真意を決めつけないように書かれているのではないかというものです。とても優しい解釈だと思います。

読書会でも熱く語ってしまったのですが、主催者・春名の意見を書いておきます。僕は最初に読んだとき、上記のような〈わたしたち〉の存在を認めつつも、ひとつ納得できない点がありました。それは、「世間の描く女子高生像と本当の女子高生は違う、本当の自分たちを見てよ」という主張のはずなのに、〈わたしたち〉だって主人公三人を好きなように歪めているではないか、という疑問でした。今回の読書会のために三度目の通読をし、ようやくその疑問が解決できた気がします。それは、〈わたしたち〉の抱く願いが、主人公三人を通して描かれているのだろう、という解釈です。現実がどうであれ、実現の可能性がどうであれ、〈わたしたち〉はこういう風に生きていきたい、という願いが描かれている。その願いとは、人と優しい関係を築きたいとか、幸せな人生を送りたいといった、ごくありふれた、真っ当なものです。ラストで、真汐の言葉を借りてこうした願いが宣言のように強調されています。（帯文にもなっている箇所です。）

いったいどれだけ賢ければ波風立てずに生きて行けるのだろう。どれだけ美しければ世間にだいじにされるのだろう。どれだけまっすぐに育てばすこやかな性欲が宿るのだろう。どれだけ性格がよければ今のわたしが全く愛せない人たちを愛せるのだろう。気が遠くなる。楽しいことばかりではない道が目の前に果てしなく続いている。（文庫版230～231ページ）

本書では、少女達のこうしたストレートな主張が、実に回りくどい手法で描かれています。そして、実は〈最愛の子ども〉とは、〈わたしたち〉の抱くこうした願いそのものなのではないかという気がします。そう思いながら最後の一文を読むと、ぐっときて涙が出そうになります。

◆関連図書

『私のいない高校／青木淳吾』…同じ課題図書の別の読書会にて、関連本として紹介されていたもの。海外留学生を迎えた高校の日常が担任教師の目から淡々と描かれる。物語性やテーマを徹底的に排除してあり、課題図書とは真逆と言える。

『ピクニック／今村夏子』…語り手が「ルミたち」という複数人物なのが本作との共通点。ただしこちらでは、群れになった人間の醜さが描かれており、やはり課題図書とは真逆。

『私たちの望むものは／岡林信康』…1970年に発表されたフォークソング。主催者・春名が課題図書を〈わたしたち〉による希望と捉えたところから連想。「私たちの望むものは～ではなく、私たちの望むものは～なのだ」という歌詞が連呼される。個人的には、課題図書とかなり近いテーマだと思う。

『桐島、部活やめるってよ／朝井リョウ』…高校を舞台にし、こちらは主に男子生徒の視点から描かれる。課題図書における男子のリーダー、鞠村尋斗に対応するような生徒が、最後に大きな気づきを得る話。

『ピエタとトランジ／藤野可織』…女子高生二人の物語。今が最高の時間であってこれから下がっていくしかないという確信を持ちながら、ずっと生きていく。ある一時期の美しさを描いた作品として、課題図書と通じる。

『帰って来た桃尻娘／橋本治』…何も考えていない先輩が、課題図書での苑子を彷彿とさせる。

『聖なるズー／濱野ちひろ』…人間と動物を、主人とペット、ではなく同等に見ている。男と女、女と女、親と子、などの関係においてどうしても常識や習慣で限定されてしまうところで、課題図書との共通点を感じた。

◆関連資料（Webページ）

・著者インタビュー《前編》／同《後編》

・「書評王の島」内．豊崎由美さん書評…エコスフィア（閉ざされた透明な球体に水と藻とエビを入れ、太陽光だけで生態系を保てるようにした環境）について言及している点など、非常に興味深い。

2020.7.6第3回読書会を開催しました！

7月5日、第3回オンライン読書会を開催しました。参加者は前回と同じメンバー3名でした。テーマは「ミステリ小説」でしたが、皆さん謎解きメインの本格ミステリより、キャラクターやサイドストーリーや文体を楽しまれる傾向が同じで、毛色の違った探偵小説や犯罪小説が紹介されました。
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◆紹介された本

・『夢果つる街／トレヴェニアン』…カナダのモントリオールにある「ザ・メイン」という界わいが舞台で、まったく優秀ではないラポワント警部補が事件の解決にあたる。寡作の著者トレヴェニアンにおいて、紹介者いちばんのお気に入り。小さなエピソードを重ねつつ大きな謎解きもあり、今回の紹介の言葉の中に、伏線も含まれているとのこと。

・『雪の階（きざはし）／奥泉光』…600ページほどとなかなかのボリュームですが、分厚い本の多い同著者の『鳥類学者のファンタジア』『グランド・ミステリー』あたりに比べれば、まだ“薄い”本。数行に渡る一文があったり、三人称複数視点で書かれたりなど実験的要素も多い作品。関連映像としてYoutubeで公開されている動画も紹介されました。

　「人生に、文学を」オープン講座

・『僕が殺した人と僕を殺した人／東山彰良』…アメリカのデトロイトと台湾が舞台。モータウンに憧れた少年の一人が、やがて彼の地で殺人犯となる悲劇。どんでん返しに大きなドラマが潜んでおり、謎解きが終わっても深く心に残る一作。

・『空飛ぶ馬／北村薫』『六の宮の姫君／(同)』…明治文学風味が楽しめる。

・『悪党どものお楽しみ／パーシヴァル・ワイルド』…1929年の古き良きアメリカが舞台。賭け事がテーマともなる、ほのぼの系ミステリ。

・『クリスマスのフロスト／R・D・ウィングフィールド』…キャラクターを楽しむドタバタ小説なのに、起こる事件は意外にシリアスで陰惨。事件をきっちり解決するわけではなく、伏線を回収することもなく、ある日の警察署を描く、といった感じ。

・『終わりの感覚／ジュリアン・バーンズ』…初老の男の元に舞い込む一通の手紙から、若き日の苦い記憶が蘇る。かつての恋人の母親から現金500ドルと手紙が遺された理由とは。純文学だけれどミステリーの手法が使われた、様々な読者を楽しませる一作。

◆おまけ

すこし時間が余ったので、僕から二冊、手法としてはミステリ的でもある漫画を紹介させて頂きました。

・「リビングで」（『夢から覚めたあの子とはきっと上手く喋れない／宮崎夏次系』より）…ある日、父親が精神を病み、犬として生活を始める。小さな子供はなぜかすぐに順応し、父親に首輪をつけて散歩させるが、妻は納得できず子供に詰め寄る。実は子供の行動には理由があり、最後に明かされる心情が胸を打つ。

・「飛ぶな猿」（『白エリと青エリ１／関根美有』より）…仕事をテーマにした短編集の一編。進化した猿が飛行テストに成功し、有名になる。その傍らで一心に洗濯をする母親。息子と母親、それぞれが突き刺さるほどの強烈な一言を放つ。

2020.6.18第1回映画会を開催しました！

6月17日、第1回のオンライン映画会を開催しました。参加者は3名で、僕が個人的にお声がけした方が、初めて参加して下さいました。今回も一人一人の発言できる時間が長く、じっくり語り合えたと思います。最後にちょっとだけ、おすすめ本の紹介もできました。
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テーマとしては一応、「この時期にお勧めしたい映画」としてありましたが、そこまで厳しい縛りではなくお気に入りの映画をご紹介いただきました。一人１作ずつをちょうど２周したところで時間切れとなりました。いつも思いますが、２時間ってあっという間ですね。皆さん、僕よりも映画に詳しい強者でしたので、コアな作品がどんどん出てきました。また、紹介された作品を別の方がさらに詳細に語られたりして、大いに盛り上がりました。

映画に関連して参加者の人生が語られるところも面白く、今回は、「ウンタマギルー」という沖縄を舞台にした作品を通じて、「かつて沖縄に住んでいたので思い入れがある」「将来、私も沖縄に住んでみたい」「それでも、人によって合う合わないはある」など、沖縄談義に花が咲きました。

というわけで、初開催の映画会、なかなかいい感じになったと思います。読書会に比べて映画会はあまり開かれていない気がしますが、好きな映画を思いきり語ること、聞いてもらうことはすごく楽しいことだと再認識しました。離れた場所に住んでいる方達がこのサロンを通じて知り合いになれるのも、オンラインならではの魅力だと思います。今後もいろいろと企画は考えており、また近々、募集をおこなう予定です。

◆紹介された映画

・タクシー運転手～約束は海を越えて
・ブラック・クランズマン
・ウンタマギルー
・浮き雲
・ゴーストワールド
・ア・ゴースト・ストーリー

◆紹介された本

・ゴーストワールド／ダニエル・クロウズ
・ウィルソン／ダニエル・クロウズ
・ホテル・アルカディア／石川宗生
・霧に橋を架ける／キジ・ジョンスン

2020.6.8第2回読書会を開催しました！

6月7日、第2回のオンライン読書会を開催しました。参加者は3名で、SNSの告知をご覧になった方が初めて参加して下さいました。少人数ゆえに、一人一人の発言できる時間が長く、十全に語り合えた気がします。
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2020.5.20第1回アナログゲーム会を開催しました！

5月17日、オンラインSALONの第2回として、第1回アナログゲーム会を開催しました！　参加者は前回の読書会のメンバーのうち3人、僕を入れて4人での開催となりました。友人同士でのゲームは何度もやったことはありますが、ゲーム会として開催するのは初めて、もちろんオンラインでも初の試みでした。プレイしたゲームと雑感は、下記のとおりです。
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◆いい線いきまSHOW

冒頭で遊んだのがこれ。参加者の一人が数に関するお題を出し、全員が数値を発表して、ちょうど真ん中の値の人が得点をもらえるというもの。お題は、「この本のページ数は？」というしっかり正解の出るものから、「今日、日本中で『あ～あ』と言ってしまった人は何人？」のような、およそ計測できないものまでなんでもアリ。しかも、正解を書いたからといって得点をもらえるわけではありません。参加メンバーの思考を読み、みんなの真ん中の値になることを目指します。今回は4人という偶数人数でしたので、全体の2番目の値の人に2点の得点が入ることにしました。また、一番小さい数と一番大きい数を書いた人は-1点となります。順番に出題者を替え、2巡したところで合計得点を競いました。
　回答はメモに書いていただき、それを順番にカメラに見せてもらいました。そこから2番目の数値を出すところでやや手間取りましたが、これはリアルのゲーム会でやっても同じように手間取るところなので、良しとします。
　このゲームのキモは、人との思考のずれ具合や、ある物事への関心の強弱を面白く観察することです。「そんな多くないよ～！」とか、「なんでそんなに少ないの？」など、驚くことしきり。それから、どんなお題が飛び出すかもお楽しみの一つで、今回、「私が髪を洗うとき、抜ける髪は何本？」というお題が心に強く残りました。

◆ハゲタカのえじき

次にプレイしたのは、ドイツゲームの名作です。じつに、1980年代に発表されたカードゲームです。各プレイヤーはそれぞれ、「1」～「15」の数字の書かれた15枚のカードを持ちます。山札にも15枚のカードがありますが、書かれている数字は「1」～「10」、「-1」～「-5」という内容です。山札を1枚ずつめくり、そのカードを獲得するため、全員で競りをします。競りに使うのが各自の持った15枚のカードで、これを1枚ずつ出し、基本的には一番大きな数字を出した人が今回の山札を獲得します。ただし、一番大きな数字を出した人が2人以上いた場合、その次に大きな数字を出した人が山札を獲得します。つまり、「15」のカードを出したからといって、必ず競り勝てるわけではない、そこが大きなポイントです。
　15枚のカードは、各自でトランプをご用意いただき、スペードの「1」～「K」の13枚に、ハートの「4」と「5」をそれぞれ「14」と「15」に見立てて使いました。トランプが手元にない方は、適当なメモ用紙を15枚用意していただき、そこに「1」～「15」の数値を書いてもらいました。今回、これらが混じっていてわかりにくかったのが反省点であり、メモに数値を書いて見せあう方法に統一したほうがわかりやすかったと感じました。
　山札2枚ほどで練習し、本番に移ります。皆さん、すぐにコツをつかまれたようで、策略を練ってカードを出していきます。と、ゲーム中盤でトラブルが発生。最初の2枚の練習のあと、本当は手札を元に戻すはずだったのが、戻していない人もいたことが発覚しました。これは、しっかり僕が確認しなかったのが原因です。このあたりがオンラインの特徴で、リアルでゲームをしていたら自然と全体が見渡せるのですぐにわかるのですが、手元が見えないネット環境だとそこが不明瞭になってしまいました。
　結局、もう一度はじめからやり直し、ということになりました。やはり面白いのは、最高値のカードを出したら他の人とバッティングして山札が取れなかった、というところで、今回もその場面が何度かありました。また、マイナス値のカードについては、一番小さい数のカードを出した人が取る、というルールもあって、マイナスカードはできれば取りたくないから大きめの数字のカードを出したい、でも大きな数字のカードは残しておきたい、というジレンマにかられます。シンプルで奥深い、やはりこれは名作ゲームだと再認識しました。

◆ブラックストーリーズ～ファニー・デス

最後にプレイしたのがこれ。実在した変死事件、死因や死の顛末が少々変わっている事件が集めてあり、些細なヒントからその事件の詳細を当ててもらうというゲームです。参加者が全員一丸となって正解までたどり着くのが目的で、参加者同士での勝ち負けはありません。僕がお題となるカード一枚を選び、ヒントを皆さんに伝えました。参加者は僕に対し、イエスかノーで答えられる質問をし、僕がイエスかノー、または「わからない」「事件とは関係がない」等の答えをします。そうしたやりとりを繰り返し、最後に真相にたどり着くのが目的で、これは昔からある「海亀のスープ」と呼ばれる遊びです。
　僕は妻と二人、ドライブ中に問題を出し合ってよく遊んでいました。ただ、慣れないと質問の仕方が難しく、今回も質問が出てこずに膠着してしまう場面がありました。あまりにも答えが出ないようなら、ヒントを出すか、最終的には答えを示そうかと考えていましたが、無言でも頭の中でいろいろと考えている方もいらっしゃるので、気長に待つことにしました。結局、時間ぎりぎりくらいで回答が出たので、僕としてもほっとしました。途中でいくつか、重要な分岐点となる質問がなされ、そこから真相へ近づいていくのも面白かったです。ただ、問題内容によって面白さにかなりばらつきがあるので、問題カードのチョイスも難しいところです。また、人の死を面白がるようなところに拒否反応を示す方がいるかもしれない、とも感じました。

【まとめ】

事前にいろいろと準備をし、シミュレーションを重ねてはいましたが、やはり離れた場所で手元も見えづらい状況で、いくつか不手際もありました。また、ゲームの終了時などのポイントで、ファンファーレのような効果音が流せればさらに盛り上がるのではないかと感じました。それでも、参加者の皆さんのおかげで、楽しく過ごすことができたように思います。不手際は次回の反省点として生かし、また次の機会を設けてみたいと思っています。

2020.5.6第1回読書会を開催しました！

5月3日、記念すべき第1回のオンライン読書会を開催しました。参加者は5名で、いずれも以前のリアル読書会でご一緒した方々でした。事前に何度もテストを重ね、主催者としてはかなりドキドキのスタートでしたが、大きな問題や混乱もなく、楽しく過ごすことができました。

テーマとしては「この時期に読みたい本」としてありましたが、それほどタイトに考えず、好きな本を紹介して頂くつもりでした。それでも実際お話をお聞きしてみると、なんらかの形で現状につながる内容の本が紹介されており、その意味でも貴重な時間になったと感じています。

映像や音声の質は問題ないレベルでしたし、発言のぶつかりも思ったほど気になりませんでした。ただ、マイクの位置が近すぎると息遣いさえも拾ってしまうため、適度に口からマイクを離したほうがよい場合もあることがわかりました。
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